飲食店店長労務管理超基礎【第6回】飲食店店長ならば書面での労働契約締結を徹底する

 飲食店においては、人材の入れ替わりが激しいこと、慢性的に人手が不足していることから採用面接時についつい「じゃあ早速今日から働いて」と働かせてしまうことが少なくありません。そのため労働契約書の締結はおろか、労働条件の明示さえなされないまま従業員を働かせてしまうことがあります。しかしこのような状態のまま、従業員を働かせることは法律上、そして人事管理上大きなリスクを抱えることになります。以下ではこのような状態がどのようなリスクを抱えるのか、店長はどのように対応すべきかについて解説します。


 労働契約は書面の労働契約書がなくとも、店長が「今日から働いて」と労働契約の申込みを行い、それに対して応募者が「わかりました」と承諾をすれば成立します。契約の形式は自由ですから、口頭のみで契約は成立するのです。しかし、面接では仕事ができそうだと感じたものの、実際働かせてみたら、まったく仕事ができないということもあり得ます。その従業員を辞めさせたいとき、もしも短期の有期労働契約であることを書面で明示していれば、その期間満了時に契約を更新しなければよいだけです。しかし契約時に期間の定めをしていなければ、解雇せざるを得ない状況となり、契約期間満了で辞めてもらうよりも、解雇の方がトラブルになる可能性が高まります。


 労働基準法は雇用に関するトラブルを防止するため、契約期間や就業の場所、従事すべき業務、就業時間、残業の有無や賃金などについては書面で明示することを義務付けており、違反すれば30万円以下の罰金が科せられることがあります。またパートタイム労働法においては、昇給、退職手当、賞与の有無についても書面明示が義務付けられており、こちらも違反すれば10万円以下の科料が科せられることがあります。店長は原則として面接の当日から働かせることは避けるべきですが、どうしても働かせたい場合は、短期の労働契約を結べばよいのです。たとえば体験入店申込書のような形で1日だけ働かせてみるという方法もあるでしょう。いずれにしても労働条件を明確にしないままにすぐに勤務に就かせることは避けるべきですし、書面による労働契約を締結することが求められるのです。



 また従業員の勤務初日には配慮することも求められます。新人が忙しい日や忙しい時間帯に初めて勤務すれば、おそらく店長も他の先輩アルバイトも新人の面倒を見る余裕はありません。新人は2つの思いを抱きます。「忙しいんだな。やっていけるだろうか?」「周りの仲間はあまりフォローしてくれないのだな」。このような状態では安くない広告費を投資して採用した新人が一日で辞めることにもなりかねません。それだけに店長は、新人の勤務初日には最大限の注意を払うことが必要です。忙しくない曜日、忙しくない時間帯から徐々に慣れさせて育てていくべきでしょう。忙しく人手が足りないと焦る気持ちを抑えて、どのような状況であっても新人の成長をじっくり見守りながら慣れさせていくことを忘れてはなりません。新人がその後続くかどうかは最初の数回の勤務で決まります。「やっていけそうだ」「是非ここで働きたい」。新人にそう思ってもらうことは店長の重要な仕事です。そのため初回から数回の勤務については、その時間に何を教えるのか、何を覚えてもらうのかなどの詳細なスケジュールを立てておくことが必要です。


 飲食店店長にとって、労働契約の重要性を理解することは重要です。どのような事情があっても必ず書面でその労働条件を明示しなければなりません。また法律上求められているのは明示ですが、その労働条件を労働者も了承した証拠を残すために双方の署名がはいった契約書の形が望ましいことはいうまでもありません。



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(中島敏雄)


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