中国人事管理の先を読む!第8回「進出企業の人事制度(4)基本給の設計」

 給与を構成する要素のうち、中核を成すのが基本給です。今回は、基本給はどのように設計するのかについてお話します。

 一般的に基本給には、「シングルレート」と「レンジ給」の2通りの決め方があります。シングルレートとは、等級やポジションごとに一つの基本給額のみを設定しているものに対し、レンジ給とは、等級やポジションごとに基本給の上限と下限が設定されているものです。つまり前者の場合、同じ等級やポジションであれば、年齢や経験の差に関係なく一定の給与額が支払われるのに対し、後者では同じ等級やポジションであっても年齢、経験、能力などによって基本給に格差が生じるものです。
【シングルレートによる基本給例】
等級S1の基本給 3000元
等級S2の基本給 3500元

 上記のように、各々の等級に基本給額が1対1で対応している基本給制度をシングルレートと呼びます。人事制度の中でも、職務給制度に多く取り入れられているものです。この場合、基本給の上昇、即ち昇給は、昇格することで上位等級のレートの基本給まで上がることになり、昇格と昇給が同時に行われることになります。シングルレートの場合、等級定義の資格による昇格審査を厳格に実施したり等級間の基本給額差が大き過ぎ、昇格に躊躇してしまうことで、昇給の運用が硬直化してしまいやすいことから、基本給以外に「業績給」を設け、昇格以外の評価によって給与を弾力的に運用するケースも多く見られます。
【レンジ給による基本給例】
等級S1の基本給 3000元~3500元
等級S2の基本給 3500元~4000元

 このように、各々の等級の基本給に一定の幅(レンジ)を持たせ、その範囲で基本給を決定する制度をレンジ給と呼びます。レンジ給の場合、社員の評価によって基本給を弾力的に運用することができ、また中途採用等の初任給の決定がレンジの中でできるため、シングルレートと比較すると、運用はやりやすい制度となります。レンジの中を更に細分化し、「号」を用いて基本給テーブルを作成するパターンと、兎に角レンジだけ決めておいて、その中で自由に基本給が決定できるようにしておくパターンとの2通りがあります。しかし、給与の決定に対して比較的自由な裁量が与えられているため、逆に給与の決定に恣意的要素が加わったり、基本給の差に対する合理的な裏付けが無くなってしまうことの懸念が存在します。次回からは、シングルレートとレンジ給のそれぞれ、運用上のメリット、デメリットについて解説します。
(2011年3月22日 Bizpresso掲載記事)

[執筆者プロフィール]
清原学
株式会社名南経営 人事労務コンサルティング事業部
海外人事労務チーム シニアコンサルタント(中国担当)
 1961年兵庫県生。学習院大学経営学科卒。共同通信社、アメリカAT&Tにて勤務後、財団法人社会経済生産性本部にて組織人事コンサルティングに従事。大手エンジニアリング企業の取締役最高人事責任者(CHO)を歴任し、上海・大連・無錫・ホーチミン・香港の駐在を経て、2004年プレシード上海設立。中国進出日系企業約400社の組織構築、人事制度設計、労務アドバイザリー、人材育成に携わる。日本、中国にて講演多数。2011年からは株式会社名南経営にて日本国内での活動を行っている。
・独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー
・ジェトロ上海センター 人事労務委託業務契約
・財団法人 社会経済生産性本部コンサルティング部 経営コンサルタント
・兵庫県中国ビジネスアドバイザー
・神戸学院大学 東アジア産業経済センター アドバイザー


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参考リンク
ビジネスフリーペーパー「Bizpresso」概要
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(清原学)

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