就業規則改定により労働条件を変更するときには慎重な対応が必要です

 服部社長と宮田部長は、大熊社労士から労働契約法のレクチャーを受けることで、従来何気なく扱ってきた労働契約についてその基本を知ることができたと実感している。



大熊社労士:
 それでは続いて、労働契約法の第8条を見て行きましょう。



労働契約法 第8条(労働契約の内容の変更)
 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。



大熊社労士大熊社労士:
 経営状況が著しく悪化した場合など、賃金や労働時間などの労働条件を変えなければならないこともあるでしょう。労働者に有利になるのであれば良いのですが、不利になるような労働条件の変更では、それを巡ってトラブルにならないように、まずは使用者と労働者が事前に十分に話し合うことが大切です。
宮田部長:
 労働者と使用者が、合意すれば労働条件を下げることはできるのですよね。
大熊社労士:
 はい、使用者と労働者の双方が合意すれば労働条件を変更することはできます。ただし法令に違反するような合意は認められません。分かりやすい例を挙げれば、時間給にして500円という条件で双方が合意したとしても、最低賃金法ではそのような条件は認められていませんので無効となり、最低賃金法で定める額が適用されることになります。
宮田部長宮田部長:
 合意があっても最低限守らなければならないものがあり、それが労働基準法や最低賃金法などの法令に規定されているというわけですね。
大熊社労士:
 その通りです。労働契約法だけではなく、労働基準法をはじめとする労働に関する法律も理解した上で労働条件を設定し、労働契約の締結をする必要があります。また、どうしても使用者が強い立場にありますので、労働者が合意したとしてもそれは表面的なことで、本心は違っているということも考えられます。そのような場合、労働者のモチベーションは下がり、離職もしくは労働基準監督署への申告などに繋がる可能性もありますので軽々に労働条件を下げるようなことは避けた方が良いというのは言うまでもありません。



第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第10条
 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。



大熊社労士:
 就業規則も労働条件であることを第6条(労働契約の成立)でみました。ご存知のとおり就業規則は使用者が作成するものですが、就業規則を変えることで自由に労働条件を変更することができると誤解されている使用者もおられます。その結果、労働紛争に至るケースも出てきています。
服部社長服部社長:
 就業規則の見直しについては、どのように、またどの程度行なっていけばよいのか、よくわかっていないのが正直なところです。ですから慎重さの足りない使用者の場合は、見直しの程度が行き過ぎてしまって労働紛争になってしまうのではないでしょうか。
大熊社労士:
 なるほど、そうかもしれませんね。使用者が就業規則を変更したとしても、労働者の不利益になるような労働条件の変更は認められません。しかし、絶対に変更が認められないというわけではなく、第10条に規定されている以下の条件を満たしていれば労働条件の変更が可能となります。
変更にあったって次のような事情などに照らして合理的であること
(1)労働者の受ける不利益の程度
(2)労働条件の変更の必要性
(3)変更後の就業規則の内容の相当性
(4)労働組合等との交渉の状況
変更後の就業規則を周知していること
服部社長:
 の(1)~(4)は簡単に書いていますが、それぞれの条件が合理的であるかどうかは、非常に難しそうですね。我々には、なかなか判断がつきませんし、どのように準備すれば良いかも分かりません。
大熊社労士:
 そうでしょうね。これらの条件は、過去にいくつかの裁判で示されたものに沿って規定されたものですので、それらを参考にして検討をする必要があるでしょう。そう頻繁にはないと思いますが、もし労働条件を変更しようとする場合は、事前によく相談してください。
服部社長:
 もし、労働条件の変更が必要になったときは大熊さんにご相談させていただきますので、そのときはよろしくお願いします。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は労働契約法の第8条(労働契約の内容の変更)、第9条、第10条(就業規則による労働契約の内容の変更)について取り上げてみました。労働者が働いていく中では、賃金や労働時間などの労働条件が変ることもあるでしょう。そのとき、労働条件の変更をめぐってトラブルにならないように、使用者と労働者で十分に話しあうことが大切です。なお、就業規則の変更による労働条件の変更は、まずその変更の必要性を慎重、かつ、十分に検討しなければなりません。安易に変更してしまうと、トラブルの原因になりますので注意してください。また、就業規則の変更に関する裁判例としては、秋北バス事件、大曲市農業協同組合事件、第四銀行事件、みちのく銀行事件が挙げられていますので、次の資料を参考にしてみてください。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/12.pdf



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2008年5月5日「就業規則で定める労働条件も労働契約の内容となることをご理解ください」
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2008年2月19日「厚労省よりダウンロードできる労働契約法のポイント資料」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51258163.html


参考リンク
厚生労働省「労働契約法がスタート!~平成20年3月1日施行」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/index.html
厚生労働省「労働契約法 参考となる裁判例」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/12.pdf


(鷹取敏昭)


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