年次有給休暇は当年度分と前年度分のどちらを優先して充当すればよいのですか?
前回、大熊に対して年次有給休暇(以下、「年休」という)の買い上げに関する質問をした宮田部長。今週も引き続き、年休に関する質問を行うことにした。
宮田部長:
大熊先生、年休に関してまだいくつか疑問に思っていることがあるのでお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?
大熊社労士:
もちろん、いいですよ。何なりとお聞きください。
宮田部長:
ありがとうございます。年休は付与された年度に取得し切れなかった場合、翌年に繰り越されますよね?その結果、前年度付与分と当年度付与分の2年分の年休を持つことになると思うのですが、実際に年休を取得する際には、そのどちらから充当すればよいのでしょうか?
大熊社労士:
なるほど、その疑問ですね。結論から言えば、会社が就業規則等でルールを決めればいいんですよ。そうすれば、当年度分からでも前年度分からでも、どちらを優先して充当しても問題はありません。
宮田部長:
そうなんですか?いろいろな会社で話を聞いたら、前年度分から充当しているという話ばかりだったので、法的にそうしなければいけないのだと思っていました。
大熊社労士:
確かに繰越をした前年度分から充当している会社が多いように思いますね。もし当年度分から充当するとした場合、それをすべて取得しない限り、前年度分は取得できないことから、従業員には不利になってしまいます。そこで前年度分から充当させる企業が多いのでしょうね。ただここで重要なのは、この取り扱いに関し、労働基準法において明確な規定が存在しないということでしょう。
宮田部長:
だから、就業規則で定めれば、当年度分から充当とすることもできるのですね。
大熊社労士:
その通りです。前年度分と当年度分のどちらを優先するのかは労使の利害が相反する部分でもありますので、無用なトラブルを防止する意味からも労使で話し合い、その取り扱いを就業規則に明示しておくことが望まれますね。
宮田部長:
よく分かりました。ありがとうございました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は年休取得における具体的取り扱いについて取り上げました。今回の話は意外に知られていないのではないかと思いますが、就業規則などに定めることにより、当年度発生分から充当することも可能ですので、就業規則を整備する際には具体的に検討をしておきたいものです。
[関連法規]
労働基準法 第115条
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
民法 第488条
債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。
民法 第489条
弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。
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(大津章敬)
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