育児休業期間中に働くと、育児休業給付はもらえなくなるのですか?

 いつも通り服部印刷に到着すると、何やら小脇に書類を抱えた宮田部長が待ち構えていた。


宮田部長宮田部長:
 大熊先生、おはようございます。以前の宿題通り、福島さんの雇用保険の賃金登録は完了しました。無事、受給資格もあり、もらえることになりました。ほっとしましたよ。
大熊社労士:
 そうでしたか。お疲れ様でした。
宮田部長:
 それで、この後どうすればよいのですか?
大熊社労士:
 あはは、さっそくの質問ですね。この後は、原則として子が1歳に達する前まで育児休業給付が支給されることになり、2ヶ月に1回、支給申請を行います。
宮田部長:
 2ヶ月に1度ですね。あ、福島さんの申請書にも提出期限が書いてありますね。この期間内に申請をする。忘れないようにしなくては。
大熊社労士:
 そうですね。特に申請期限は厳守となっています。その期間内に支給申請しなければ支給されないということになってしまいます。その際の注意点ですが、その支給申請書には、被保険者本人の署名が必要になります。育児休業中の方ですと、出勤しないために、郵送でそのやり取りをすることが多くあるかと思いますが、書類が返送されてこないといったトラブルも見られるため、管理を徹底しておくことも、この申請のポイントになります。
宮田部長:
 なるほど。まずは2ヶ月毎で手帳に「福島さん申請!」と書いておくことにします。それでも忘れそうだな・・・。
大熊社労士:
 そうですよね。私は、育児休業を取っているご本人にも制度を周知することをお勧めしています。「2ヶ月に1回、偶数(奇数)月の月初に申請をするから、もし、書類が送られてこなかったら連絡してね」と伝えておくのです。やはり、実際に給付を受けられるのは本人なので、仮に忘れていると気にして連絡をくれる人もいるようですよ。
宮田部長:
 なるほど、確かにそうですね。なんだか福島さんであれば、説明せずともきちんと連絡してきそうですけどね(笑)。ところで大熊先生、この育児休業給付、給与の半分くらいがもらえるんですよね?
大熊社労士:
 はい、そうです。賃金登録していただいた数字に基づいて計算された休業開始時賃金日額に、育児休業を取得した暦の日数(支給日数)を乗じて算出された金額の50%が現在は支給されています。まぁ、給与の半分くらいの認識でよいでしょう(一部、上限等あり)。
宮田部長:
 それって必ず支給されるものなのですか?何か支給の調整とかあったりするのですか?
大熊社労士:
 ん?何か心配されていることがあるのですか?
宮田部長:
 はい、実は福島さんに少しだけお仕事を手伝ってもらおうと思っているのです。もちろん、育児休業中なので無理を言うつもりは全然ないのですし、勤務分には給与を支払う予定です。というのも、先日話題に出ていた派遣社員から直接雇用に変更した社員の教育をお願いしようと思っていまして・・・。
大熊社労士:
 なるほど、指導役として少し出勤してもらう予定があるということですね?
宮田部長:
 はい。先日、福島さんに連絡をしていて、「もう少ししたら例の年度更新や算定基礎が来るよ~」なんてぼやいたら、「お手伝いしましょうか?」なんて言ってくれちゃって。でも、さすがに全部をお願いするわけにはいかないので「社員になったメンバーに教える時間をとってもらえないか」ということでまとまったんです。
大熊社労士:
 なるほど。それであれば、5月・6月に数日出勤することになりそうですかね?
宮田部長:
 はい、そのイメージでいました。もちろん私が教えてもよいのですが・・・何せ私も昨年1回やっただけの初心者ですからね(苦笑)。それでそのように出勤したら、育児休業給付がまったくでなくなったとなると、いくらその分の給与を出すと言っても福島さんに悪い気がして・・・。
大熊社労士大熊社労士:
 なるほど。今回のケースですが、恐らく支給停止になったり、減額されることはないと考えられます。この判断ポイントは2つあります。支給単位期間(※)の就業日数、支払われた賃金額。この2つです。
※育児休業を開始した日から起算した1ヶ月ごとの期間
宮田部長:
 はぁ・・・。
大熊社労士:
 順番に説明していきましょうね。まず、支給単位期間の就業日数ですが、1ヶ月の間に仕事に来た日数が10日以下でなければなりません。例えば1ヶ月に1日出勤したとしても、支給されなくなることはありません。
宮田部長:
 なるほど。もちろん、そんなに多く出勤してもらう予定はないので、それは楽勝でクリアできそうです。
大熊社労士:
 そして、支払われた賃金額ですが、給与がたくさん払われると調整されます。具体的には支給単位期間中に賃金支払日がある場合で、支払われた賃金額が休業開始時賃金日額×支給日数の30%を超えるときは、支給額が減額されます。さらにその額が50%を超えるときは支給停止となります。
宮田部長:
 つまり、出勤日数は10日以下で、給与は30%以下でないと、育児休業給付が減っちゃうということですね。まぁ、最大5日くらいで考えておけばいいのかな。
大熊社労士:
 そうですね。育児休業給付の場合、支給単位期間という独特の考え方があるので、初日から末日の暦日の1ヶ月では考えませんが、最大5日程度で、働いた時間に応じた給与のみを払うのであれば調整されることはないと思いますよ。
宮田部長:
 了解しました。まぁ、恒常的に出勤してもらう予定はもちろんありませんし、うまく福島さんと調整して年度更新・算定基礎、それぞれのときに数日応援に来てもらうようにしたいと思います。ありがとうございました。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。育児休業中に臨時で出勤してもらいたいということは稀にあるようですが、育児休業給付にはこのような考え方があるので、出勤日数や給与の額にも留意しながら、勤務してもらうようにしましょう。なお、前提には育児休業中であることがありますので、恒常的な勤務はそもそも育児休業なのかという疑問も出てきかねません。その点も押さえながら業務を指示をするようにしましょう。


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参考リンク
ハローワークインターネットサービス「育児休業給付の内容及び支給申請手続について」
https://www.hellowork.go.jp/dbps_data/_material_/localhost/doc/ikuji_kyufu.pdf

(宮武貴美)

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