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厚生労働省のサイトを見ていたところ、「男女間の賃金格差解消のために」という特設ページが設置されていました。いくつかのPDFファイルから構成されているのですが、それを見ると「男女間賃金格差の発生原因は多種多様ですが、最大の要因は男女間の職階の差であり、勤続年数の差も影響しています。また経営団体トップや労働組合幹部に対するアンケートや企業ヒアリングによれば、業務の難易度、業務の与え方に男女間で相違があることが指摘されています。」という記述が見られました。そして「男女間の賃金格差はその原因のところでみたように、賃金制度そのものの問題と言うよりは人事評価を含めた賃金制度の運用の面や、職場における業務の与え方の積み重ねや配置の在り方等賃金制度以外の雇用管理面における問題から生じていると考えられます。」と続けています。
人事コンサルタントとして多くの企業の人事制度改革を手掛けていますが、やはり未だに多くの企業で男女間の賃金格差が見られます。これは賃金制度のセミナーでもよくお話しする内容ですが、製造業で賃金制度の分析を行い、固定給のプロット図を作成するとほとんどの場合、一定の傾向が見られます(傾向が出ない小企業は除く)。それは現業職の男性の固定給は30万円が上限、女性は20万円強が上限、管理職や営業職など非現業職は概ね地域のモデル賃金に沿って運用されるというものです。これは絶対ではありませんが、かなりの高確率でこのような傾向が見られます。
賃金制度を見直す際には当然、この格差の理由を性別に求める訳にはいきませんので、現場を見学させてもらい、男女の仕事の状況を確認するのですが、確かに仕事の内容が異なっていることがほとんどで、単に男女で格差をつけているということは今どきはあまりないようです。しかし、私がいつも現場見学をしている最中に工場長などにお聞きするのは「この仕事は男性ばかりですが、女性ではできないのですか?」ということ。確かに重量物を扱うなどの仕事は女性には難しいのかもしれませんが、そういった仕事以外にもなんとなく昔から男性が行ってきて、女性に担当させていないという仕事が現場にはかなりあります。まずはこういった仕事の配置からゼロベースで見直しすることが求められるのでしょう。男女の賃金格差も大きな問題ですが、それ以上に今後は労働者人口の減少で、従来男性が行っていた仕事にも積極的に女性や高齢者などを配置していかなければ業務が成り立たない時代に突入していきます。
若い男性社員が採用できないと嘆く前に、本当にその仕事は男性しかできないのか見直す必要がありそうです。
(大津章敬)
2007年から2010年にかけて団塊世代の定年退職がピークを迎える2007年問題が話題になっています。この団塊の世代の大量退職により、企業においては深刻な労働力不足に陥ると警鐘が鳴らされていますが、それと同じレベルで捉えなければならないのが、次の世代へ如何にベテラン社員の暗黙知を含む技能の伝承を進めるかという問題でしょう。事実、内閣府が企業に対して行ったアンケート調査では調査に回答した企業のうち、約46%の企業が「技術・技能の伝承」が「かなり困難化する」「多少困難化する」と回答しています。
平成18年4月1日より、65歳までの高齢者雇用確保措置が義務付けられますが、高齢者の労働力を活用するうえで、ベテラン社員の長年の経験による技術・技能や知識は貴重なものであり、その伝承は高齢者に対して一番期待される役割ではないでしょうか。実際に高齢者を雇用し技能・技術の伝承が成功した例として、独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構が発行する雑誌「エルダー」2004年10月号で紹介された奈良県のある会社は、高齢者と若者を組み合わせた班編成で土木技術に関する技術・知識の伝承に効果を上げています。この会社では高齢者にも土木施工管理技士、建築施工管理技士、建築士などの資格取得を推進、その結果資格を取得した人も現れ、会社全体のレベルアップになり、また高齢者の体力への負担を減らすため設備を改善した結果、全体の安全対策の向上にもなったということです。
高齢者の雇用制度はそれぞれの企業に合わせて作らなければなりませんが、高齢者は就業意識、能力、健康など個人差が大きく、その人それぞれのライフプランもあり、雇用の仕組み自体が柔軟でなければ高齢者を労働力としてうまく活用することができません。独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構ではワークシェアリングや設備・作業の改善などを行い、高齢者の活用に意欲的に取り組む企業の実例が公開されていますので、参考にされてはいかがでしょうか。
(土方憲子)
従来、従業員の兼業を認める会社はほとんどありませんでしたが、ここ数年、残業規制の強化やワークシェアリングの進展などに伴い、それを認める事例が徐々に増加しています。このようなダブルワークをしている労働者については、労働時間の計算や社会保険の加入、事業所間移動における事故発生時の労災適用など多くの問題がありますが、今回は労働時間のカウント方法について、その法的取り扱いを見ることにしましょう。
労働基準法第38条は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定していますが、これは、同一事業主に属する異なった事業場において労働する場合だけではなく、事業主を異にする事業場において労働する場合も含んでいることを意味します。(昭和23.5.14、基発769号)よって、労働時間の通算の結果、時間外労働に該当する場合には割増賃金を支払わなくてはいけないということになるのです。
この場合、どちらの事業主が割増賃金を支払わなくてはならないのでしょうか?いくつかの例を挙げて解説しましょう。(甲事業主・乙事業主ともその労働者が兼業していることを知っており、また乙事業主が甲事業主の後で労働契約を結んでいるとします。)
A.甲事業場(4時間)の後、乙事業場(5時間)で勤務する場合
⇒乙事業所で1時間の時間外労働による割増賃金の発生
B.甲事業場(5時間)の後、乙事業場(4時間)で勤務する場合
⇒乙事業所で1時間の時間外労働による割増賃金の発生
C.甲事業場(4時間)の後、乙事業場(4時間)で勤務する契約であるが、たまたま甲事業場で5時間勤務してしまった場合
⇒甲事業場で1時間の時間外労働による割増賃金の発生
実務上良く見られるのが、甲事業場で常勤として8時間勤務した後に、乙事業場にアルバイトとして勤務するするケースでしょう。この場合は乙事業所のついてはそのすべてが法定労働時間超になりますので、割増賃金の対象となります。愛知県の場合は現在、最低賃金は683円/時ですので、最低でもその25%増の854円以上の時給で雇用契約を結ぶ必要があるということになります。
現実、このような取り扱いが行われていることは稀だとは思いますが、今後、社員の兼業を積極的に認める企業は年々増加することでしょう。その際にはこうした法律の原則的な取り扱いについて押さえて、実務を行うことが求められます。
(労働時間チーム)
平成18年4月より施行される60歳以降の年齢への雇用年齢引き上げ義務化が大きな話題となっております。そこで今回はいち早く継続雇用制殿導入などを行った事業主のための助成金制度(継続雇用定着促進助成金)をご紹介したいと思います。
■ 継続雇用定着促進助成金
1.継続雇用制度奨励金(第Ⅰ種)
継続雇用制度の導入または改善を行う事業主に対して助成する制度です。次のいずれにも該当する雇用保険の適用事業主に支給されます。
①下記②の継続雇用制度導入日から1年以上前において労働協約または就業規則により60歳以上の定年が定められていること。
②労働協約または就業規則により、(イ)または(ロ)に該当する継続雇用制度を設けたこと。
(イ)定年延長等。(a)または(b)
(a)定年を61歳以上に引き上げ、引き上げ前の定年を越える年齢の者を当該引き上げ後の定年に達するまで雇用する制度を設けたこと。
(b)定年延長と実態上同一の制度改善を行ったこと。
(ロ)継続雇用制度または在籍出向制度により、65歳以上の年齢まで雇用する制度を設けたこと。
③上記②の継続雇用制度の導入前の過去における定年または継続雇用制度による最高の退職年齢を超えるものであること。
④上記②の継続雇用制度を導入した日において、常用被保険者のうち、1年以上継続して雇用されている55歳以上65歳未満の常用労働者が1人以上雇用されていること。
2.多数継続雇用助成金(第Ⅱ種)
第Ⅰ種支給事業主のうち、高年齢者の雇用割合が15%を超える事業主に対して助成する制度です。
さらに、平成16年4月1日以降は、65歳以上の定年導入と同時に高齢短時間正社員制度を導入した事業主には上記「1.継続雇用制度奨励金(第Ⅰ種)」に支給加算が行なわれることとなっています。今後も様々な改正が予想されますので、注目していく必要があるでしょう。
参考:http://www.jeed.or.jp/elderly/employer/subsidy/subsidy1.html
(伊藤里奈)
先週の日曜日、9月に発売予定の退職金単行本(タイトル未定:日本法令)の原稿が書きあがったという記事を掲載しました。本単行本では服部印刷という仮想の企業での退職金制度改定を小説形式で取り上げ、退職金制度改定を実際に行う際の検討ポイントや手順を解説しています。本日から全5回(予定)に亘り、この単行本のメインとなる小説部分をプレビューとして当blog上でご紹介したいと思います。
それでは第1回の本日は退職金制度診断報告会の中から、適格退職年金の状態について取り上げている部分をご紹介しましょう。
これを聞いた服部の表情が蒼ざめた。隣に座っている宮田も同様である。
服部社長:
「5年後には枯渇?!宮田部長、どういうことなんだ?」
宮田部長:
「これまで適格退職年金については保険会社の担当者に任せ切りで、状況をほとんど把握していませんでした。こんな状況になっているとは….。しかし、この適格退職年金の契約は社員の定年退職・中途退職の別に関わらず、その全額が支給されるという内容になっていたはずですが。大熊さん、どういうことなのでしょうか?」
大熊コンサル:
「はい、これが最近良く言われる積立不足の問題です。積立不足の原因はいくつかあるのですが、もっとも大きいのが予定利率の問題です。予定利率というのは、掛金や給付額の算定の基礎となる利率ですが、御社ではこれを年5.5%と設定しています。つまり毎年5.5%の運用がなされるという前提で掛金が決まっている訳です。しかし、実際の運用利率を決算報告書で確認したところ、現在は年0.75%の運用となっていました。年5.5%で運用されるつもりが、年0.75%でしか運用できていない訳ですから、少なくともその差額部分については積立不足となってしまいます。更に、今の状態で適格退職年金を継続するとすれば、その差額は膨らみ続ける、つまり積立不足が拡大することになります。その他にも要因はあるでしょうが、この結果が積立金の少なさに繋がり、あと5年でそれが枯渇するという大きな原因になっています。」
服部社長:
「いまどき年5.5%の運用という現実離れした設定をしていること自体が問題ということですね。宮田部長、当社ではなぜこれまでこの予定利率を見直して来なかったのか?」
宮田部長:
「言われてみれば2年位前に保険会社の担当者から利率の見直しが何とかという話があったのですが、それを行うと毎月の掛金が倍くらいになるというので見送ったことがありました。」
服部社長:
「そういえば、そんな相談を受けた気がするな。事情が良く分からないままに、掛金が上がるのは困るので、据え置くように指示した覚えがある。」
大熊コンサル:
「他社もほとんど御社と同じ状況です。適格退職年金では5年毎に財政再計算といって掛金の見直しを行うのですが、その際に予定利率を変更することができます。しかし、中小企業では、掛金が大幅に増加することを嫌って、5.5%で据え置かれている事例がほとんどでしょう。御社の適格退職年金の決算報告書の貸借対照表を見ると、責任準備金、つまり将来の年金給付を賄うために現時点で必要な積立金は88,275,206円となっています。これに対し、実際に貯まっているお金が保険積立金で、その額は58,947,172円です。よってこの差額である29,328,034円が、積立不足となるのです。もっともこれは年金制度の計算上の数字ですので、退職金規程に基づく社員への債務という視点とは若干異なっています。しかしそのような細かい話はともかくとして、まず現時点では現在適格退職年金という外部積立に貯まっているお金が6,000万円弱しかないという点を押さえて頂ければ結構です。
(大津章敬)