兼業・副業を認める場合にはどのような注意点がありますか?

 今回も先週に引き続き、兼業・副業の説明をするため、大熊は服部印刷を訪問した。


大熊社労士
 おはようございます!
宮田部長宮田部長
 大熊先生、おはようございます!緊急事態宣言が出てから、お店で飲めないと思うと、逆に自宅で飲み過ぎてしまいますね。この週末もふるさと納税で取り寄せたビールを飲み過ぎました。
大熊社労士
 そうですね。家飲みもいいですが、ビアガーデンで大ジョッキなんてのもいいですよね。フライドポテトでもつまみながら。
福島照美福島さん
 それはいいですね。本来であれば梅雨入り前でいま一番気持ちがいい時季ですからね。外でお酒を飲むなんて最高ですよ。あ~、BBQとか行きたいなぁ。
大熊社労士
 今年の秋まではまだ難しいかも知れませんが、来年のいま頃はワクチンも行きわたって、従来のような生活が取り戻せるといいですよね。そうなったら、ビアガーデン行きましょうよ♪
宮田部長
 はいはい、ぜひぜひ!
大熊社労士
 さて、今日は前回に引き続き、兼業副業ですね。前回は、裁判例では兼業副業は原則OKで、一定の支障がある場合には制限されるというお話をさせていただきました。
服部社長服部社長
 従来の常識とは真逆なので驚きましたが、改めて当社でのルールの整備の必要性を感じました。
大熊社労士
 そうですね。法的な問題への対応も必要ですが、それ以上に、多くの労働者にとって兼業・副業の可否が会社選びの一つの要因となって、それができない会社が選ばれなくなってしまうという点が懸念されますね。
服部社長
 もうそんな話になっているのですね。
大熊社労士大熊社労士
 はい。エン転職が2月に実施した「コロナ禍での企業選びの軸の変化」というアンケート調査の中でも、テレワークや副業などの希望の働き方ができるかどうかが企業選びの軸となっていることが明らかになっています。今後、この流れは強まる一方ではないかと思います。さてさて、兼業副業を認める場合のポイントの話に移りましょう。まず兼業副業の契約形態は大きく以下の2つに分かれます。
(1)雇用契約
(2)業務委託契約(請負など)
宮田部長
 通常、イメージするのは(1)の雇用契約ですよね。夕方からコンビニでアルバイトをするといった感じで。(2)の業務委託契約ってどんなことがあるのですか?
福島さん
 部長、Uber Eatsの配達員のみなさんは業務委託で、労働者ではないようですよ。
大熊社労士
 そうですね。最近だとUber Eatsが分かりやすい事例ですね。もっともあれはかなり労働者性が強い業務委託かなとは思います。それよりももっと身近な人がいると思いますよ。
宮田部長
 え??身近な人??
福島さん
 あ、わかった。大熊先生ですよね?
大熊社労士
 はい、私と御社の契約は業務委託ですよね。正確に言えば、準委任契約と呼ばれるものになります。
宮田部長
 なるほど。雇用契約と業務委託契約はなにが違うのですか?
大熊社労士
 一番の違いは、雇用契約の場合には会社からの具体的な指示命令に基づいて仕事をするのに対し、業務委託についてはそうした指揮命令下には入らず、仕事の完成(請負)や業務の処理(準委任)を行うということになります。私も御社からの相談に対応していますが、指揮命令下で仕事をしている訳ではありませんよね?一方、福島さんは服部社長や宮田部長の指揮命令下で様々な仕事を担当されています。このようなものが雇用契約になります。
宮田部長
 そうやって表現していただくと分かりやすいですね。
大熊社労士
 ここで実務上問題になるのが、雇用契約の場合には、労働時間の通算ルールというものがあるということです。労働基準法では、別の事業主や事業所で働いたとしても労働時間は通算するというルールがあります。具体的に言うと、御社の正社員が昼間8時間のフルタイム勤務をした後、コンビニで3時間アルバイトをしたとします。この場合、その労働時間は通算され、11時間勤務したこととなり、アルバイトの3時間はすべて時間外労働になります。
福島さん
 当然に割増賃金も必要となるのですよね?
大熊社労士
 その通りです。
宮田部長
 それだと、なかなか副業者を雇用することはできないですよね?だって、最初から2割5分増しの賃金を支給する必要があるのですよね?
大熊社労士
 その通りです。よってその労働時間の管理を行う必要もありますし、また過重労働の問題もあります。よって、雇用契約で兼業副業を行うのは、なかなか課題が大きいということになります。ということで、実際の兼業副業事例を見ると、雇用契約での副業は認めず、業務委託契約のみ許可しているという企業も少なくありません。
服部社長
 なるほど。いろいろな論点があるのですね。
大熊社労士
 そうなのです。それでは次回は、兼業副業を認める際の制度設計についてお話しますね。
服部社長
 よろしくお願いします。

>>>to be continued

大熊社労士のワンポイントアドバイス[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
 こんにちは、大熊です。今回は、兼業副業における2つの契約形態と、労働契約で行う場合の労働時間通算の問題について取り上げました。この労働時間の通算の問題は、実務上は非常に悩ましいところとなります。そもそも副業先での労働時間を把握し、管理すること、場合によっては割増賃金を支給するというのは、勤怠の締め日なども異なることから、実務としては非常に煩雑です。そこで現在は簡易な労働時間の取り扱いとして管理モデルというものも認められています。これまでアルバイトを雇用している企業などでは、この通算ルールを知らず、割増賃金の支払いをしていないような事例も多いと思われます。今後、兼業副業が増加し、このルールが一般に知られるような状況になると、これが問題となるようなケースも増加するのではないでしょうか。今後、兼業副業を認める企業だけでなく、既にアルバイトを雇用しているような企業では、改めて自社の取り扱いに問題がないか確認しておくことが求められます。

[関連法令]
労働基準法第38条
 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。
昭和23年5月14日 基発第769号(局長通達)
 「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む。


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参考リンク
厚生労働省「副業・兼業」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html
エン転職「1万人アンケート(2021年2月)コロナ禍での企業選びの軸の変化」
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2021/25262.html

(大津章敬)