[ワンポイント講座]退職した社員に賞与を支払う必要はあるのか

 先週くらいから多くの企業で賞与支給がなされていますが、今年は企業業績の急激な低下により、例年よりも支給額が減ったと嘆いている方も少なくないのではないかと思います。このままの状況が続くと夏季賞与は更に厳しい状況が予想されますが、今回のワンポイント講座では賞与をキーワードとして、退職した社員から賞与の請求があったときの注意点を取り上げてみましょう。


 まずは賞与の定義について確認しておきましょう。通達によれば、賞与とは「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め予定されていないものをいうこと。定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とみなさないこと」(昭和22年9月13日 発基17号)とされています。こうした性格を持つ賞与ですが、その支給実務においては、よく支給日在籍要件が問題となります。例えば賞与の算定期間が5月1日から10月31日、そして支給日が12月10日の場合、11月30日に退職した社員について賞与を支給する必要があるのかどうかという問題です。まず原則ですが、この社員は賞与の算定期間内は勤務している訳ですから、仮に支給日よりも前の11月30日に退職したとしても、賞与の請求権を有することになります。よってこうした場合に退職した社員から賞与を支払って欲しいと請求があれば、支払わざるを得ないということになります。


 以上の原則を押さえた上で、賞与の支給日在籍要件について考えてみましょう。支給日在籍要件とは「賞与の支給対象者は賞与支給日に在籍している社員に限る」というように、賃金規程等においてルール化されたものを言います。こうした定めがある場合には、仮に先ほどの例のように賞与算定期間に在籍していたとしても、支給日に在籍していない場合には、賞与を支給する必要はないということになります。この支給日在籍要件の有効性については、以下の[関連判例]にある大和銀行事件の最高裁判決を参照して下さい。多くの企業では賞与に今後の社員の活躍に対する期待の意味を込めていることが多く、支給日に在籍していない社員に対して賞与を支給することを避けたいと考える企業が多いでしょう。よって実務的にはもう少し細かい課題もありますが、企業としては、退職した社員から賞与を請求されて無用なトラブルに発展させないためにも、就業規則や賃金規程において根拠となる条文(支給日在籍要件)を定めておくことが求められます。


[関連判例]
大和銀行事件(最高裁一小 昭和57年10月7日判決)
 Yにおいて、就業規則32条の改訂前から、年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて、その支給日に在籍している者に対してのみ、決算期間を対象とする賞与が支給されている慣行が存在していた。就業規則32条の改訂は単にY銀行の労働組合の要請によって慣行を明文化したものであって、その内容においても合理性を有する。XはYを退職した後の賞与については、支給日に在籍していなかったので、受給権を有しない。



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参考リンク
福島県労働委員会「労使トラブルQ&A-一時金の支給日在籍要件」
http://www.pref.fukushima.jp/roui/roushitoraburuqa/kobetu/200203.html


(福間みゆき)


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