[ワンポイント講座]求人募集における労働条件明示の際の留意点
求人募集を行う際には、ハローワークに求人を出したり、ホームページなどで募集を行うことがありますが、募集要項と実際の雇用契約内容とが異なり、応募者から話が違うとしてトラブルに発展することがあります。そこで今回のワンポイント講座では、求人募集を行う際の留意点を押さえた上で、この問題について取り上げることとしましょう。
求人募集においては、その適正な実施を図る観点から職業安定法で規制が行われており、従業員を採用しようとする場合に明示しなければならない項目が定められています(職業安定法 第5条の3)。具体的には以下の6項目であり、求人を行う際にはこれらの項目がすべて網羅されてるのかチェックしておくことが必要です。
労働契約の期間に関する事項
就業場所、従事すべき業務に関する事項
始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第8条各号に掲げる賃金を除く。)の決定、計算・支払方法、賃金の締切り、支払の時期、昇給に関する事項
退職・解雇(事由および手続等)に関する事項
労働・社会保険の適用に関する事項
明示方法としては、原則として書面を交付する必要がありますが、メールの利用も認められており、この場合は応募者がメールによる方法を希望し、かつ実際にメールが応募者に到達した場合に限られています。そのため、メールにより募集内容を知らせる場合は、メールが届いたことを確認しておく必要があります。併せて明示を行う際には、虚偽または誇大な内容にならないようにし、併せて誤解が生じないように平易な表現を用いることが求められます。
それでは冒頭で取り上げた募集要項と実際の労働契約の内容とが異なるというトラブルについての対応策について考えてみましょう。実際の求人を行う際に、給与面において例えば「基本給20万円から25万円」といったように幅をもたせて表示することがありますが、こうした表記を行った場合には応募者が基本給25万円だと思い込むことがあります。こうした募集要項については、あくまで採用側からの申込みの誘引に過ぎず、この求人票に記載された労働条件がそのまま労働条件になることを保障したものではないとされています。判例(昭和58年12月19日東京地裁判決 八重洲測量事件)においても、この点について法的な拘束を認めていません。しかしその一方で、「真実性・重要性・公共性等からして、求職者は当然求人票記載の労働条件が雇用契約の内容となるものと考えるし、通常求人者も求人票に記載した公共職業安定書の紹介により成立した労働条件の内容は、当事者間において求人票記載の労働条件を明確に変更し、これと異なる合意をする等特段の事情のない限り、求人票記載の労働条件のとおり定められたものと解すべきである」とした判例(昭和58年10月19日大阪地裁決定、千代田工業事件)もあります。
そのため会社としては、面接時において募集要項がそのまま労働契約になるものではないことを説明し、採用が決定する前に労働条件の内容を確認することが求められます。そして、採用時には改めて労働条件を書面で明示し、再度、労働条件の確認を双方で行なうことが望まれます。
[関連法規]
職業安定法 第5条の3(労働条件等の明示)
公共職業安定所及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者(第39条に規定する募集受託者をいう。)並びに労働者供給事業者は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
2 求人者は求人の申込みに当たり公共職業安定所又は職業紹介事業者に対し、労働者供給を受けようとする者はあらかじめ労働者供給事業者に対し、それぞれ、求職者又は供給される労働者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
3 前二項の規定による明示は、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により行わなければならない。
職業安定法 第42条(募集内容の的確な表示)
新聞、雑誌その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出又は頒布その他厚生労働省令で定める方法により労働者の募集を行う者は、労働者の適切な職業選択に資するため、第5条の3第1項の規定により当該募集に係る従事すべき業務の内容等を明示するに当たつては、当該募集に応じようとする労働者に誤解を生じさせることのないように平易な表現を用いる等その的確な表示に努めなければならない。
職業安定法施行規則 第4条の2(法第5条の3に関する事項)
法第五条の三第三項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。
1 労働者が従事すべき業務の内容に関する事項
2 労働契約の期間に関する事項
3 就業の場所に関する事項
4 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間及び休日に関する事項
5 賃金(臨時に支払われる賃金、賞与及び労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第8条各号に掲げる賃金を除く。)の額に関する事項
6 健康保険法(大正11年法律第70号)による健康保険、厚生年金保険法(昭和29年法律第105号)による厚生年金、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)による労働者災害補償保険及び雇用保険法(昭和49年法律第116号)による雇用保険の適用に関する事項
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(福間みゆき)
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