[ワンポイント講座]1週間前に年次有給休暇の申請しなければ認めないという取扱いの可否

 以前、このワンポイント講座では「当日の朝に年次有給休暇の請求があった際の取扱い」についてとり上げましたが、年休の取扱いについては会社ごとに様々な運用がなされています。そこで、今回のワンポイント講座では、年休の申請を1週間前までとしていた場合で、従業員から前日に申請があった際の取扱いについて取り上げましょう。


 そもそも年休は、労働基準法第39条に基づき、8割の出勤率など一定の要件を満たした場合に、勤続年数に応じて所定の日数が付与されると定められているだけであり、いつまでに申請しなければならないなど、その取扱いについては特に定めがありません。そのため、従業員からの取得の意思表示に基づき、会社として時季変更権を行使するほどの事由がなければ、その取得を認めなければならないということになります。


 しかし、会社としては前日になって急に年休の申請が行われると、勤務シフトを調整する必要が出てきたり、予定していた生産計画が達成できなくなり、業務に支障を来たすこともあり得るため、できれば3日前や1週間前に申し出てもらいところではないでしょうか。年休の申請にあたり期限を設定することについては、判例(昭和57年3月18日判決 最高裁一小 電電公社此花電報電話局事件)の中で年休の請求を2日前までに行うこととする就業規則について、時季を指定すべき時期について原則的な制限を定めたものとして合理性があるとしており、一定の合理的な範囲で事前に申請を求めることに問題はありません。ただし、申請期限については合理的な理由なく不当に長く設定する場合はやはり問題があるため、1週間前から前日の範囲内で決めることが一般的でしょう。


 社内ルールとして1週間前に年休の申請をしなければならないとした場合、前日に申請のあった年休の取得を認めないという取扱いをすることはできるのでしょうか?年休が成立する要件については、通達(昭和48年3月6日 基発110号)の中で、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」というような観念を容れる余地はないとされています。そのため、会社は社内ルールを守らずに年休を申請したとしても取得を認めなければならないということになってしまいます。社内ルールを確認してみると文書化されていないことが少なくないため、会社としては、まずは文書化できていない事項を従業員の誰が読んでも分かるように規定しておくことが求められます。併せて休暇申請書の中に申請期限を記載しておくことによって、従業員への注意喚起につながるでしょう。



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参考リンク
大阪労働局「(第39条)年次有給休暇」
http://www.osaka-rodo.go.jp/joken/rokiho/kyuka/rokiho39.html


(福間みゆき)


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