[ワンポイント講座]パート従業員が育児休業を取得する際の注意点

 先日、改正育児・介護休業法が施行されましたが、前回の改正(平成17年4月施行)において、契約期間の定めのあるパート従業員についても要件を満たすことで育児休業を取得することができるようになりました。そのため近年、パート従業員が育児休業を取得するケースが増えていますが、特に期間の定めがある者については、更新時において更新の有無が曖昧になっていることから、育児休業の取得の申出においてトラブルになることが少なくありません。そこで今回のワンポイント講座では、育児休業を取得できるパート従業員の範囲について解説しましょう。


 まず、育児休業をすることができる期間雇用者は、申出の時点において、次のからのすべてを満たす必要があります。
当該事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者
その養育する子が1歳に達する日(以下「1歳到達日」という)を超えて引き続き雇用されることが見込まれる者
当該子の1歳到達日から1年を経過する日までの間に、その労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことが明らかでないこと


 具体的な取扱いについては、厚生労働省から「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針 平成21年厚生労働省告示第509号 平成21年12月28日告示)」が示されているため、この内容を確認する必要があります。以下では、この指針に基づいて解説します。まず「については、申出の直前1年間に実質的に雇用が継続しているか否かという点から判断することになります。次にについては、「1歳に達する日」とは1歳の誕生日の前日であることから、1歳の誕生日において雇用契約が存在している必要があるということになりますが、「引き続き雇用されることが見込まれる」か否かは、労働契約が更新される可能性について書面または口頭で示されているかどうかという点から判断することになっており、必ずしも更新が確実でなくてもよく、見込みや可能性でも問題ないとされています。そのため、「契約を更新する場合がある」「更新については会社の業績に応じ、契約終了時に判断する」のように明示している場合は、更新の可能性が示されているとして扱われます。


 上記のことから、どのようなケースがの要件と満たしているのか具体例を挙げておきましょう。まずは、雇用契約期間が3年でその契約期間の末日が1歳到達日を超えている場合が該当します。この他には書面で労働契約の更新可能性が明示されており、申出時点の契約と同じ長さで再度更新されたとしたならば、その更新後の労働契約の期間の末日が子の1歳の誕生日以後となる場合も該当します。


 反対にの要件を満たさないケースとしては、そもそも契約を更新しない旨が示されており、申出時点の雇用期間の末日が子の1歳の誕生日の前日以前である場合や、予め更新回数の上限が示されており、その上限まで契約が更新された場合であってもその契約期間の末日が子の1歳の誕生日以前である場合等などあります。ただし、労働契約の更新可能性が明示されていない場合については、雇用の継続の見込みに関する会社の言動、同様の地位にある他の労働者の状況や本人の過去の契約の更新状況などの実態から判断が行われるため、このの要件を満たす場合があることに点に注意が必要です。
 
 最後にについては、子の2歳の誕生日の前々日までに、労働契約の期間が満了しており、かつ、契約が更新されないことが明らかでないことであり、2歳の誕生日の前日に雇用契約が存在するか否かによって判断します。そのため、例えば更新回数の上限が明示されており、その上限まで契約が更新された場合の雇用契約の期間の末日が、子の1歳の誕生日の前日から2歳の誕生日の前々日までの間である場合は、の要件を満たしていないということになります。ただし、これについてもと同様に雇用の継続の見込みに関する会社の言動、同様の地位にある他の労働者の状況や本人の過去の契約の更新状況などの実態から判断され、を満たす場合があることに注意が必要です。


 このようにパート従業員の雇用契約の内容および実態の取扱いから判断が行われるため、会社としては、申出があった際に、上記のからの要件を満たしているか否かをきちんと判断することが求められます。また、パート従業員においてそもそも更新の有無を曖昧にしていることが多いため、書面で明示を行い、更新に関するトラブルについても未然に防ぎたいものです。



関連blog記事
2010年5月6日「育児休業や介護休業をすることができる期間雇用者について」
http://blog.livedoor.jp/leafletbank/archives/50847741.html
2010年7月3日「男性従業員の積極的な育児への参加を支援する「イクメンプロジェクト」サイト」
https://roumu.com
/archives/51755969.html

2010年6月29日「明日より一般事業主行動計画の様式が変更となります」
https://roumu.com
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2010年6月16日「[ワンポイント講座]育児休業中に会社が倒産した場合の育児休業給付金の取扱い」
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/archives/51749289.html

2010年6月9日「[ワンポイト講座]労使協定により介護短時間勤務を拒むことのできる従業員の範囲」
https://roumu.com
/archives/51746076.html

2010年06月11日「連合から公開された改正育児・介護休業法対応チェックリスト」
https://roumu.com
/archives/51747438.html

2010年6月3日「改正育児・介護休業法施行に伴う育児休業給付(雇用保険)の変更」
https://roumu.com
/archives/51743969.html


(福間みゆき)


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子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号 平成21年12月28日告示)


第2 事業主が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るための指針となるべき事項
1 法第5条及び第11条の規定による労働者の育児休業申出及び介護休業申出に関する事項
(1) 法第5条第1項及び第11条第1項に規定する期間を定めて雇用される者に該当するか否かを判断するに当たっての事項
労働契約の形式上期間を定めて雇用されている者であっても、当該契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となっている場合には、法第5条第1項各号及び第11条第1項各号に定める要件に該当するか否かにかかわらず、実質的に期間の定めのない契約に基づき雇用される労働者であるとして育児休業及び介護休業の対象となるものであるが、その判断に当たっては、次の事項に留意すること。
イ 有期労働契約の雇止めの可否が争われた裁判例における判断の過程においては、主に次に掲げる項目に着目して、契約関係の実態が評価されていること。
(イ) 業務内容の恒常性・臨時性、業務内容についての正社員との同一性の有無等労働者の従事する業務の客観的内容
(ロ) 地位の基幹性・臨時性等労働者の契約上の地位の性格
(ハ) 継続雇用を期待させる事業主の言動等当事者の主観的態様
(ニ) 更新の有無・回数、更新の手続の厳格性の程度等更新の手続・実態
(ホ) 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等他の労働者の更新状況
ロ 有期労働契約の雇止めの可否が争われた裁判例においては、イに掲げる項目に関し、次の(イ)及び(ロ)の実態がある場合には、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っているものであると認められていることが多いこと。
(イ) イ(イ)に関し、業務内容が恒常的であること、及びイ(ニ)に関し、契約が更新されていること。
(ロ) (イ)に加え、少なくとも次に掲げる実態のいずれかがみられること。
① イ(ハ)に関し、継続雇用を期待させる事業主の言動が認められること。
② イ(ニ)に関し、更新の手続が形式的であること。
③ イ(ホ)に関し、同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例がほとんどないこと。
ハ 有期労働契約の雇止めの可否が争われた裁判例においては、イ(イ)に関し、業務内容が正社員と同一であると認められること、又は、イ(ロ)に関し、労働者の地位の基幹性が認められることは、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っているものであると認められる方向に働いているものと考えられること。
(2) 期間を定めて雇用される者が法第5条第1項各号及び第11条第1項各号に定める要件を満たす労働者か否かの判断に当たっては、次の事項に留意すること。
イ 法第5条第1項第1号及び第11条第1項第1号の「引き続き雇用された期間が1年以上」とは、育児休業申出又は介護休業申出のあった日の直前の1年間について、勤務の実態に即し雇用関係が実質的に継続していることをいうものであり、契約期間が形式的に連続しているか否かにより判断するものではないこと。
ロ 法第5条第1項第2号の「その養育する子が1歳に達する日(以下この条において「1歳到達日」という。)を超えて引き続き雇用されることが見込まれる」か否かについては、育児休業申出のあった時点において判明している事情に基づき相当程度の雇用継続の可能性があるか否かによって判断するものであること。例えば、育児休業申出のあった時点で、次の(イ)から(ニ)までのいずれかに該当する労働者は、原則として、相当程度の雇用継続の可能性があると判断される場合に該当するものであり、(ホ)、(へ)又は(ト)に該当する労働者は、原則として、相当程度の雇用継続の可能性があると判断される場合に該当しないものであること。ただし、雇用の継続の見込みに関する事業主の言動、同様の地位にある他の労働者の状況及び当該労働者の過去の契約の更新状況等に基づいて判断すべき場合もあり得ること。また、育児休業申出のあった時点で次のいずれにも該当しない労働者は、雇用の継続の見込みに関する事業主の言動、同様の地位にある他の労働者の状況及び当該労働者の過去の契約の更新状況等に基づいて判断するものであること。
(イ) 育児休業申出のあった時点で締結している労働契約の期間の末日が1歳到達日後の日である労働者
(ロ) 書面又は口頭により労働契約を更新する場合がある旨明示されている労働者であって、育児休業申出のあった時点で締結している労働契約と同一の長さの期間で契約が更新されたならばその更新後の労働契約の期間の末日が1歳到達日後の日であるもの
(ハ) 書面又は口頭により労働契約を自動的に更新すると明示されている労働者であって、自動的に更新する回数の上限の明示がないもの
(ニ) 書面又は口頭により労働契約を自動的に更新すると明示されている労働者であって、自動的に更新する回数の上限の明示があり、当該上限まで労働契約が更新された場合の期間の末日が1歳到達日後の日であるもの
(ホ) 書面又は口頭により労働契約の更新回数の上限が明示されている労働者であって、当該上限まで労働契約が更新された場合の期間の末日が1歳到達日以前の日であるもの
(へ) 書面又は口頭により労働契約の更新をしない旨明示されている労働者であって、育児休業申出のあった時点で締結している労働契約の期間の末日が1歳到達日以前の日であるもの
(ト) 書面又は口頭により労働契約を更新する場合がある旨明示されている労働者であって、育児休業申出のあった時点で締結している労働契約と同一の長さの期間で契約が更新されたならばその更新後の労働契約の期間の末日が1歳到達日以前の日であるもの
ハ 法第5条第1項第2号の「当該子の1歳到達日から1年を経過する日までの間に、その労働契約の期間が満了し、かつ、当該労働契約の更新がないことが明らか」か否かについては、育児休業申出のあった時点において判明している事情に基づき労働契約の更新がないことが確実であるか否かによって判断するものであること。例えば、育児休業申出のあった時点で次のいずれかに該当する労働者は、原則として、労働契約の更新がないことが確実であると判断される場合に該当するものであること。ただし、次のいずれかに該当する労働者であっても、雇用の継続の見込みに関する事業主の言動、同様の地位にある他の労働者の状況及び当該労働者の過去の契約の更新状況等から、これに該当しないものと判断される場合もあり得ること。
(イ) 書面又は口頭により労働契約の更新回数の上限が明示されている労働者であって、当該上限まで労働契約が更新された場合の期間の末日が1歳到達日から1年を経過する日以前の日であるもの
(ロ) 書面又は口頭により労働契約の更新をしない旨明
示されている労働者であって、育児休業申出のあった時点で締結している労働契約の期間の末日が1歳到達日から1年を経過する日以前の日であるもの
ニ 法第11条第1項第2号の要件に該当するか否かについては、ロ及びハと同様に判断するものであること。この場合において、ロ及びハ中「1歳到達日」とあるのは、「93日経過日(法第11条第1項第2号に規定する93日経過日をいう。)」と読み替えるものとすること。