飲食店店長労務管理超基礎【第7回】飲食店店長ならば解雇のリスクを認識し、指導・教育を徹底する

 飲食店においては、解雇に関するトラブルが非常に多く見られます。なかでも業務の中で思うように動かない従業員に対して、経営者や店長が「もう帰れ!」「お前なんて辞めてしまえ!」と言ってしまうことがありますが、この思わず口走ってしまった一言が大きなトラブルに発展することが少なくありません。飲食店の経営者や店長はこうした発言の危険性を認識し、あるべき対策を行う必要があります。


 そもそも一度雇用した従業員を簡単に辞めさせることはできません。まず正社員の場合は、一般的には期間の定めのない雇用契約を結んでいますから、基本的には定年まで勤務してもらうことになります。一方、パート・アルバイトの場合は数ヶ月から1年程度の有期雇用契約を結んでいることが多いと思いますので、原則は契約期間満了までは働くことになるでしょう。これら定年もしくは契約期間満了による雇止め以外で従業員が退職するのは、従業員自らが退職の申出をしたとき、あるいは経営者もしくは店長がその従業員を解雇するときとなります。


 従業員が横領などの問題行動を起こした場合は懲戒解雇の検討を行うこととなりますが、そこまでの問題行動がない場合であっても、仕事がなかなか覚えられない従業員や接客態度が悪く、なかなか改善しないという従業員も現実には一定数存在し、業務の忙しさも相俟って、「辞めてしまえ!」と怒鳴ってしまうようなこともあるのでしょう。しかし、そのような軽はずみな一言が、解雇の意思表示と解される恐れがあります。しかし、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効(労働契約法第16条)とされることから、これが不当解雇として問題になることがあるのです。ですから、もし現在、店にあまり仕事のできない従業員がいる場合でも、店長は不当解雇と訴えられるリスクを認識し、まずは指導・教育を徹底しなければなりません。何度も繰り返し従業員に対する指導・教育を行い、店長がその従業員の勤務態度や能力不足を改善しようとしたことを、客観的に証明できるようにしておくことで不当解雇と訴えられたときのリスクを低くすることができます。


 しかし、そもそも解雇の合理性を証明するために指導・教育を行うというのもおかしな話です。こうした問題が起こる店では、そもそも店の指導・教育体制に問題があることも少なくありません。問題のある従業員が存在するのは事実ではありますが、そもそも従業員は店で勝手に働いていたわけではありません。採用をしたのも、そのときまで雇用していたのも店長です。採用時には「当店では、こんな考え方で働いてもらいます」と説明することによって店の考え方に合わない従業員を雇うことを防止することができます。また業務中にも「当店で働くならこんな人材になって欲しい」と指導・教育を行っていたのであればば、解雇しなければならない人材になることは少ないでしょう。むしろ結果として優秀な人材に育っていたかもしれません。指導・教育を徹底することは、解雇をする場合には、客観的合理性や社会通念上相当性を証明する重要な証拠となります。しかし、本来店長が行うべきことは、しっかり指導・教育を行い従業員を優秀な人材に育て上げることです。それが結果として解雇問題が発生した際の合理性や相当性を証明する証拠となるのです。


 まずは不当解雇の問題が発生した場合のリスクの大きさを認識しましょう。そしてそうした状態を招くことがないよう、従業員の指導・教育を徹底しましょう。通常飲食店においては、店長もオペレーションを行うため、なかなか指導教育ができないという声もありますが、指導教育の徹底が優秀な人材を育てることになりますし、それが結果的には解雇問題が発生した際のリスクを下げることにもなるのです。



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(中島敏雄)


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