中国人事管理の先を読む!第22回「進出企業の人事制度(15)人事考課③」

 今回は少し視点を変えて、「コンピテンシー」について、日本・中国双方の経験から解説したいと思います。1990年代に日本企業の多くは業績が著しく低迷し、辛酸を舐め、固定費である人件費を変動費として捉える動きが盛んになっていました。その時代にアメリカのコンサルティング企業から成果主義なるものが海を渡ってやって来たのですが、成果主義とセットになって渡来してきたのがこのコンピテンシーだったわけです。当時はとにかくどこの企業もコンピテンシー一色で、事実、このコンピテンシーで一儲けしたコンサルタントも多く生まれ、コンピテンシーこそが人事考課の最先端を走っていた時期もありました。

 しかし、所詮流行というものは長く続かず、2000年に入ってからはコンピテンシーと口に出すのも恐れるコンサルタントが続出。せっかく費用と時間をかけコンピテンシーを導入したにも関わらず、十分に活用できずにお蔵入りした企業も多く生み出してしまいました。それでは、コンピテンシーとは一体何かから解説したいと思います。

 それまでの日本企業の評価制度は「相対評価」が主流で、「標準人モデル」を基準にして、それよりも劣っている・優れているという、「標準人」と相対させて評価を行うというものが一般的でした。しかし、相対評価では所詮、標準人がベースになっているため、組織のレベルによって評価が決まってしまい、最大のパフォーマンスが生み出せるかどうかということとはあまり関連性がない評価になってしまいます。

 そこで注目されたのが「かけっこで一等になる人の腕の振り方や足の上げ方をモデルとする」コンピテンシーだったわけです。コンピテンシーの登場によってそれまでの標準人モデルは、すっかり姿を消してしまいました。「ベストプラクティス」とか「学習する組織」なる言葉がもてはやされたのもちょうどこの時期です。要は「一番になる」ためのモデルを研究して、それとの比較で社員を評価するというものがコンピテンシーなのです。考えようによっては「減点評価」なわけですね。

 それでは、このコンピテンシーと日本独自の能力評価とは何が違うのか。その違いを解説する理屈はあるのですが、運用しているうちに結局同じ性質のものになってしまうのがこの制度の大きな欠点です。というわけで、中国でも本社のコンピテンシー制度を導入している企業は時々目にしますが、はっきり言ってあまり賛成しません。コンピテンシーを昇格やアセスメントに用いるのであればまだしも、少なくとも社員の昇給や賞与の決定に使うというのはそれを合理的に説明できる管理者がいてこそ効果を生むものだと思うのです。

(2011年10月24日 Bizpresso掲載記事)


[執筆者プロフィール]
清原学清原学
株式会社名南経営 人事労務コンサルティング事業部
海外人事労務チーム シニアコンサルタント(中国担当)
 1961年兵庫県生。学習院大学経営学科卒。共同通信社、アメリカAT&Tにて勤務後、財団法人社会経済生産性本部にて組織人事コンサルティングに従事。大手エンジニアリング企業の取締役最高人事責任者(CHO)を歴任し、上海・大連・無錫・ホーチミン・香港の駐在を経て、2004年プレシード上海設立。中国進出日系企業約400社の組織構築、人事制度設計、労務アドバイザリー、人材育成に携わる。日本、中国にて講演多数。2011年からは株式会社名南経営にて日本国内での活動を行っている。
・独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー
・ジェトロ上海センター 人事労務委託業務契約
・財団法人 社会経済生産性本部コンサルティング部 経営コンサルタント
・兵庫県中国ビジネスアドバイザー
・神戸学院大学 東アジア産業経済センター アドバイザー


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参考リンク
ビジネスフリーペーパー「Bizpresso」概要
http://bizpresso.net/about


(清原学)

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