中国人事管理の先を読む!第16回「進出企業の人事制度(10)ベースアップ②」

 日本国内の企業では給与の上昇が鈍り、早い時期からベースアップの概念がなくなり、定期昇給と合わせて実施されるようになりました。中国では2006年に入ってからインフレ経済が進行し、賃金所得政策も重なって、物価上昇の傾向が顕著に現れておりますので、ベアを避けて賃金管理を行うことが難しくなってきています。ここで整理しておきたいのは、昇給は大きく分類して、以下の3つの要素が絡み合って決定されるということです。
①ベースアップ
②定期昇給(評価による昇給)
③昇格

 今回検証したいのは、①のベアと②の定昇です。限られた昇給原資の範囲においてベアと定昇の比率を決めるわけですが、ベアを疎かにしてしまいますと、世間相場の給与水準と自社の水準とが乖離を起こし、新規採用を行う場合、欲しい人材の要求給与が自社の給与に合致しない現象が現れてきます。また社員の流出を招く要因にも繋がります。しかしベアに多くの原資を割いてしまいますと、評価の思わしくない社員の給与まで上昇し定期昇給に原資を使えなくなってしまうことで、評価に応じた昇給に差がつかなくなり、パフォーマンスの高い社員のモチベーションダウンを起こしてしまいます。このように、昇給原資をベアと定昇にどのように予算を配分するかは非常に頭を悩ませる問題なのです。

 ベアには、定額のベアと定率のベアの2通りの方法があります。いずれも賃金テーブル(主には基本給テーブル)の書き換えを行うことになるのですが、定額は基本給テーブルに200元ずつ加えるというように、全員同じ金額でベアを行う方法で、定率は基本給テーブルに5%ずつ掛けるというように同じ比率でベアを行う方法です。

 定額ベアの場合、下位等級の社員ほどその効果が厚く、定率ベアは上位等級の社員に対して厚くなります。現在の中国の人事管理ではベアの上昇が非常に大きなカーブを描いていますので、定率で行ってしまうと、上位等級者の賃金の上昇ピッチが大きすぎてしまい、賃金の絶対額が跳ね上がってしまうため、定額ベアで行う方が組織管理としてはより効果的かと思われます。下位等級者には200元、上位等級者には300元というように、等級に合わせて定額ベアの金額を使い分けるケースもありますが、基本給テーブルというものは一定の法則によってきれいなカーブを描くよう作られていますので、ベアの定額を変えてしまうことで規則性が失われてしまうことにもなり兼ねないため、あまりお勧めはしません。

(2011年7月20日 Bizpresso掲載記事)

[執筆者プロフィール]
清原学
株式会社名南経営 人事労務コンサルティング事業部
海外人事労務チーム シニアコンサルタント(中国担当)
 1961年兵庫県生。学習院大学経営学科卒。共同通信社、アメリカAT&Tにて勤務後、財団法人社会経済生産性本部にて組織人事コンサルティングに従事。大手エンジニアリング企業の取締役最高人事責任者(CHO)を歴任し、上海・大連・無錫・ホーチミン・香港の駐在を経て、2004年プレシード上海設立。中国進出日系企業約400社の組織構築、人事制度設計、労務アドバイザリー、人材育成に携わる。日本、中国にて講演多数。2011年からは株式会社名南経営にて日本国内での活動を行っている。
・独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー
・ジェトロ上海センター 人事労務委託業務契約
・財団法人 社会経済生産性本部コンサルティング部 経営コンサルタント
・兵庫県中国ビジネスアドバイザー
・神戸学院大学 東アジア産業経済センター アドバイザー


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参考リンク
ビジネスフリーペーパー「Bizpresso」概要
http://bizpresso.net/about

(清原学)

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