解雇のほか、出向や懲戒についても権利濫用があった場合は無効となるのですね
大熊社労士から労働契約法のレクチャーを受けている服部社長と宮田部長。条文数が少ないので、簡単に考えていたが、条文の持つ意味などを大熊より説明され、そのボリュウムから労務管理の奥深いことを改めて実感している。
大熊社労士:
それでは続いて、労働契約法の第14条を見て行きましょう。
労働契約法 第14条(出向)
使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用としたものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。
宮田部長:
「出向を命ずることができる場合において」と書かれていますが、これは就業規則に規定されていることが必要だということですか?
大熊社労士:
はい、出向命令の有効要件自体については労働契約法で触れられていませんが、就業規則に規定されているのは大前提と思われます。ただし、規定されているだけでは十分ではなく採用時に合意を得たり、規則をもとに説明するなど出向義務を明確にし、出向先での労働条件を出向規程等で明確化するようにしてください。さらに、出向の実情や職場の労働者が同種の出向を受け入れているなど、出向が実態として労働契約の内容となっている必要があるでしょう。
服部社長:
わが社も今、営業部の村尾主任に出向してもらっているのですが、今後も機会があれば出向させたり、受け入れたり有効に活用していきたいと考えています。この労働契約法を見て、出向でも権利濫用とされないように注意しなければなりませんね。
大熊社労士:
上記の条件の下で、出向の必要性、出向させる労働者の選定の適切性などを総合的に判断し、合理的な理由で出向をさせてください。御社の場合は大丈夫だと思いますが、決して嫌がらせのようなことで出向させることは避けてください。それでは続いて第15条です。
第15条(懲戒)
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。
大熊社労士:
懲戒は使用者が企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために行われるものですが、懲戒を行うためには、その事由とこれに対する懲戒の種類と程度について就業規則に規定しておくことが必要です。
服部社長:
出向と同じように、懲戒においても有効であると判断されるために要件があるのですか?
大熊社労士:
はい、次の4つの要件が一般的に必要とされています。
罪刑法定主義
先ほど述べた就業規則への規定です。
平等取り扱いの原則
同じ規定に同じ程度に違反した場合は、これに対する懲戒は同じ種類で同じ程度であるべきです。
相当性の原則
規律違反の種類や程度、その他の事情に照らして相当なものでなければなりません。特に問題となるのが懲戒解雇の処分が、懲戒事由にはあたるものの、いろいろな事情を考慮すると重すぎる場合は無効とした裁判例が多々あります。
適正手続き
懲戒処分を行うときには就業規則に則り適正な手続きを踏んで行う必要があります。特に、重い処分に該当するときには、本人に弁明の機会を与えることが必要です。
宮田部長:
弁明の機会は就業規則に規定していませんが、それでもやはり必要なのでしょうか?
大熊社労士:
判例等においては必ずしも求めているわけではありませんが、規定がない場合でも、できるだけそのような取り扱いを行なうことが望ましいでしょう。また、懲戒の種別及び事由を就業規則に定めておく必要性に関して労働契約法には明記されてはいませんが、規定として盛り込んでおく方が良いと思われます。
第16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
服部社長:
確か、労働基準法に同じ規定がありませんでしたか?
大熊社労士:
はい、労働基準法第18条の2の規定が、そのままの条文で労働契約法へ移行しました。普通解雇をしようとする場合には、その理由と解雇理由に応じて是正する機会や弁明する機会を与えるなど必要な手続きを踏んだ上で行うことが必要です。そうでない場合は、権利濫用として解雇が無効とされますので注意してください。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は労働契約法の出向、懲戒、解雇について取り上げてみました。これらは労働者に与える影響が非常に大きく、また紛争が多発していることから、不当な出向、懲戒、解雇を防止するために労働契約法で規定されました。出向、懲戒、解雇のそれぞれにおいて、権利濫用にあたるか否かは、その事案の個別具体的な状況や事情等に応じて判断することになりますが、過去の判例等によって一定の要件が示されていますので、それらを参考にしながら慎重に判断することが必要です。よくわからないときは、社会保険労務士や弁護士へ事前に相談してください。次回の「有期雇用契約」で、労働契約法のシリーズは終了します。
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2007年3月27日「出向規程」
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参考リンク
厚生労働省「労働契約法がスタート!~平成20年3月1日施行」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/index.html
厚生労働省「【第16条に関する裁判例】<解雇権濫用に関する裁判例>日本食塩製造事件」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/12.pdf
厚生労働省「配置転換、出向、転籍に関する判例・裁判例」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/05/s0524-2b.html
(鷹取敏昭)
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