労働者派遣の「付随業務」と「付随的業務」の違いについて教えて下さい。

 前回、「政令26業務」と「自由化業務」について大熊社労士より説明を受けた宮田部長は、今週はいよいよ「付随業務」と「付随的業務」の違いについての説明を受けることになっていた。



大熊社労士大熊社労士:
 こんにちは宮田部長、前回は「政令26業務」と「自由化業務」について説明させていただきましたが、「政令26業務」と「自由化業務」の違いはご理解いただけましたでしょうか?
宮田部長:
 はい、「政令26業務」であれば、派遣受入期間の制限がないので、原則1年しか派遣を受け入れられない「自由化業務」の派遣を「政令26業務」として受け入れようとするケースが多いということ。特に事務用機器操作については、厚生労働省が厳しく指導しているということでしたね。
大熊社労士:
 そのとおりです。それでは今日はいよいよ、「付随業務」と「付随的業務」の違いについて説明させていただきますね。
宮田部長:
 待ってました。よろしくお願いします。
大熊社労士:
 まず、「付随業務」というのは、政令26業務の一部とみなされる業務のことで、政令26業務と密接不可分な業務または、一体的に行われる業務のことを言います。たとえば、担当する政令26業務に関連した指示が行われる朝礼やミーティングは、「付随業務」として政令26業務の一部とみなされます。
宮田部長:
 それは、そうですよね。朝礼やミーティングで指示をしないと、派遣社員は業務ができませんからね。その時間は政令26業務の一部と認めてもらわないと困ってしまいますよ。
大熊社労士:
 そうですよね。これについては、政令26業務の一部とみなされて当然というのはよく分かりますよね。また、専門26業務の実施、準備、整理の過程で一体的に行われ、かつ、他の労働者と適切な割合で分担しているときのごみ捨て、掃除、後片付けも「付随業務」とされるとされています。
宮田部長:
 なるほど、では、こういったケースはどうでしょう?個人的には結構多いような気がするのですが、ごみ捨てや掃除を他の従業員は行わず、派遣労働者だけが実施しているような場合。こいった場合はどうなるのでしょうか?
大熊社労士:
 良い質問ですね。それこそが「付随的業務」に当たるとされているものです。「付随的業務」は、政令26業務に伴って付随的に行う政令26業務以外の業務のことで、政令26業務に直接関係のない、延長線上の業務のことをいいます。「付随業務」については、その派遣労働者がどれだけ「付随業務」をしていたとしても何も気にすることはありませんが、「付随的業務」が1割以下であるか1割超であるかは非常に重要なポイントです。 「付随的業務」が1日または1週間の就業時間の1割以下であれば、その派遣労働者の業務は全体として政令26業務として派遣受入期間の制限をうけることはありませんが、もしも、「付随的業務」の割合が1割を超えてしまった場合は、いくらその派遣労働者の核となる業務が政令26業務であったとしても全体として「自由化業務」とされて、派遣受入期間が1年という制限を受けることになります。
宮田部長宮田部長:
 なるほど、そういうことだったんですね。前回おっしゃていたように「付随業務」と「付随的業務」、「的」がつくかつかないかで、とても大きな違いがあるんですね。
大熊社労士:
 はい。ここは非常に大きな違いがあるので、注意してくださいね。実務としては定期的に「付随的業務」が、1割を超えているかいないかをチェックする仕組みを整備する必要がありますね。「付随業務」と「付随的業務」はもちろん注意しなくてはならないのですが、実はもっと気をつけなくてはいけないのが、「その他の業務」です。
宮田部長:
 え!?せっかく「付随業務」と「付随的業務」について整理できたところなのに、まだ気を付けないといけないことがあるんですか?
大熊社労士:
 ええ、「付随業務」も「付随的業務」も「専門26業務の実施に伴う業務」という点では同じだったのですが、「専門26業務の実施に伴わない業務」である「その他の業務」については、さらに注意が必要です。例えば第5号業務(事務用機器操作)で受け入れている派遣労働者がいるとしましょう。もしこの派遣労働者にお茶くみをさせていた場合はどうなると思いますか?
宮田部長:
 え、どうなるんですか!?
大熊社労士:
 はい、事務用機器操作の業務にお茶くみが必要になるとことは通常は考えられないですよね。もし仮に派遣労働者にお茶くみを行わせた場合などは、それは「その他の業務」として、お茶くみを行わせた時点で、全体として「自由化業務」とされてしまうんです。
宮田部長:
 ええ!?そうなんですか?少し気が利く派遣社員の方だと、進んでお茶をいれてくれたり、会議室の準備や片付けをやってくれたりしますが・・・。
大熊社労士:
 そうです。そういったケースだと、非常に対応が難しいですよね。派遣労働者が自発的に政令26業務と関係ない業務をやってくれている場合でも、派遣先がそれを黙認しているような場合は、全体として「自由化業務」とされてしまいます。
宮田部長:
 そうなんですか?!そういった場合はどんな対応がいいんでしょうかね?まさか、派遣社員の方に対して「お茶くみや、片付けはやらないように!」なんていうのも、現実的にはいいにくいでしょうね。
大熊社労士:
 そうですね。まずは基本的には会議室を使う人や使った人が自分で準備や片付けをするということでしょうかね。もしも、そういった気が付く派遣労働者の方を見つけた場合には、「ありがとう、でも準備や片付けは使った人がやる仕事だから、」としっかり説明することでしょうかね。
宮田部長:
 なるほど、そうですよね。福島さんはいつも私の打ち合わせのあとの会議室の片付けを自主的にやってくれてますが、なんだか、仕事を中断させて申し訳ないと思っていたんですよね。よし!まずは私が自分で使った会議室は片付けることから始めてみるか!
大熊社労士:
 さすが宮田部長!率先垂範ですね。すばらしいことだと思いますよ。

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。先週もご紹介しました。「専門26業務に関する疑義応答集」の後半2ページでは、「付随的な業務な業務の考え方について」記載されています。具体的には
・専門26業務の実施に電話応対を要しないときの電話の応対
・第5号業務と称しつつ、銀行等への入金作業、郵便物の振分け、アポイントメント取り、会議室における会議の準備や後片付け等のいわゆる一般事務を行っている場合
などは今回とりあげたお茶くみや会議室の準備片付けと同様に「付随業務」にも「付随的業務」にも当たらないなど、具体的な判断基準がしめされておりますので、一度確認しておくとよいでしょう。



関連blog記事
2010年11月1日「労働者派遣の「政令26業務」と「自由化業務」の判断基準を教えてください」
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2008年5月28日「派遣先管理台帳(平成20年4月改正版)」
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2008年6月16日「派遣期間の制限は派遣社員や派遣会社が変わった場合、どのようになるのですか?」
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2008年6月9日「派遣労働者の受入には期限があるのですか?」
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2008年6月2日「派遣と請負とは何が違うのですか?」
https://roumu.com/archives/64910574.html


参考リンク
専門26 業務に関する疑義応答集
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/haken-shoukai05.pdf


(中島敏雄)


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