[ワンポイント講座]兼業している従業員の労働時間管理・割増賃金支払の考え方

 景気の悪化に伴い、残業規制や一時帰休を行う会社が増加しています。それによる世帯収入の低下を補うため、今後、複数の職場で掛け持ち勤務をする者の増加が予想されます。事実、弊社顧問先様のある新聞販売店でも、残業代の減少をカバーするため、日中に正社員として会社勤務しながら、朝刊配達を行っているアルバイトが増えています。そこで本日のワンポイント講座では、このように兼業している従業員の労働時間管理の方法について取り上げることとしましょう。


 兼業については、正社員については禁止している例がほとんどではないかとは思いますが、パート従業員については兼業を認めていることが多く、週の所定労働時間が短い、あるいは所定勤務日数が2~3日となっているパート従業員が、他社と掛け持ちで勤務することは頻繁に見られます。このような従業員が、自社での勤務後や勤務日以外の日に他社で勤務し、その労働時間が法定労働時間を超えた場合はどのように取り扱えばよいのでしょうか。


 労働時間の考え方としては、労働基準法第32条において「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」と定められています。その上でこの時間の計算については、労働基準法第38条第1項において「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」こととされています。この「事業場」については同一の事業主に属する異なる事業場だけでなく、「事業主を異にする事業場において労働する場合も含まれる」(昭和23年5月14日 基収769号)とされていますので、兼業を行っている従業員が他社で勤務する時間については、その労働時間を通算することが必要となっています。


 それでは具体例を挙げてみていきましょう。例えば、午前10時から午後4時まで(休憩1時間)の5時間の勤務をしているパート従業員が終業時刻後に、他社で午後6時から午後10時までの4時間勤務したとします。このパート従業員の1日の労働時間は9時間となるため、1日の法定労働時間、つまり8時間を超える1時間分については、時間外労働となります。ここにおいては36協定の締結義務および時間外割増賃金の支払いという実務的な問題ガ存在しています。
36協定
 こうした従業員にかかる36協定の締結は、通常は後から労働契約を締結した事業主にその義務があるとされています。後で労働契約を結んだ事業主は、契約の締結にあたって、その労働者が他の事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべきであるという考えがその理由となります。
時間外割増賃金
 時間外割増賃金の支払については、必ずしも1日の勤務時間帯が後ろにある事業主が支払い義務を負うとは限らず、行政通達において「法定時間外に使用した事業主は法第37条に基づき、割増賃金を支払わなければならない」(昭和23年10月14日 基収2117号)とされています。上記の例については、当社が他社よりも先に労働契約を結んでいるのであれば、他社で法定労働時間を超える時間について割増賃金を支払う義務があることになります。


 その他、兼業を認めるにあっては、時間外割増賃金の問題以前に過重労働など、健康管理に配慮することが重要です。そのため会社としては、兼業は許可制とし、兼業先の職種や業務の内容、勤務日数・時間数などを具体的に把握した上で、兼業の許可を出していくべきではないでしょうか。


[関連法規]
労働基準法 第32条(労働時間)
 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。


労働基準法 第38条第1項(時間計算)
 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。



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(福間みゆき)


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