有期雇用の場合の解雇は正社員以上に条件が厳しいのですね

 大熊社労士から労働契約法の解説を受けている服部社長と宮田部長。今回はいよいよ最後のレクチャーとなった。



大熊社労士:
 それでは次に労働契約法の第4章「期間の定めのある労働契約」に入りましょう。



労働契約法 第17条
 使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。



宮田部長:
 この第17条が適用される対象者は、パートタイマーと考えれば良いでしょうか?
大熊社労士:
 いや、そうとは言い切れませんね。これは例えば、6ヶ月間や1年間というように期間の定めのある契約で雇用されている方を指しており、パートタイマーのほか、フルタイムパートや契約社員、嘱託社員、アルバイトなども考えられます。なお、これらの名称の者でも労働契約において期間の定めがない場合は、適用にならず、正社員と同様の扱いをしなければなりませんので、解雇する場合は労働契約法第16条(解雇)のルールに基づくことになります。
宮田部長宮田部長:
 なるほど。それにしてもパートタイマー等にも、正社員と同じように第16条(解雇)を適用させれば良いと思うのですが、なぜこの条文が設けられたのでしょうか?
大熊社労士:
 実は世間では、契約期間中の解雇が安易に行われたり、必要以上の細切れの契約更新が繰り返し行われるなどして、パートタイマーなどの有期労働者の雇用が非常に不安定な状態に置かれている場合が多く見られます。特に、契約終了の際の労使トラブルが多く見られるため、そのトラブルを防止し、安心して働けるように一定のルールが設けられました。
服部社長服部社長:
 そうでしたか。当社ではあまり意識していませんでしたが、いわれてみればテレビ番組の特集などでパートタイマーや契約社員の雇用が不安定で、ワーキングプアを生み出しているという報道を最近よく見ますね。ところで、第1項に規定されている「やむを得ない事由」による解雇は、どのように考えれば良いのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、それには労働基準法第19条第1項の但書きおよび同第20条第1項の但書きにある「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」の解雇が挙げられるでしょう。しかし、実際のところ、このようなケースは少なく、実務的には正社員の場合における普通解雇に相当するケースが多いと思われます。
服部社長:
 正社員の場合、就業規則で解雇に関する規定が設けられ、それに該当する事由があったとき解雇することになるのですが、パートタイマーの場合も同様にパートタイマー用の就業規則に規定を設けておくことで良いのでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね。パートタイマー用の就業規則にそのように規定することは必要ですが、最終的には、雇用期間の途中で解雇をしなければならないほどの「やむを得ない事由」があるかどうかが問われています。
宮田部長:
 正社員の解雇と考え方は同じですよね?
大熊社労士大熊社労士:
 パートタイマーなどの有期雇用の場合は、正社員の場合とは異なり、使用者と労働者が契約時に契約期間について合意しており、まずはこれが尊重されるべきものとされているのです。そのため、「やむを得ない事由」があると認められる場合は、第16条(解雇)で認められる場合、いわゆる解雇権濫用法理よりも、狭いと考えられています。
服部社長:
 狭いということは、正社員よりも解雇することは条件的に厳しいということですか?
大熊社労士:
 そういうことになります。なお、「やむを得ない事由」に該当するかは、個別の具体的な事情や状況によって判断していくことになります。
宮田部長:
 正社員よりも解雇することが条件的に厳しいとなれば、使用者は雇用契約の期間を短くするように考えるのではないでしょうか?
服部社長:
 そのために第17条第2項が設けられているのだと思うよ。そうですよね?
大熊社労士:
 そのとおりです。契約期間を必要以上に細切れにするということは、やはりトラブルを招きかねませんので、雇用する目的に応じて適切に契約期間を設定するように配慮することが必要です。なお、パートタイマーなど有期雇用者を雇用する目的は、正社員の補助的業務を担わせるもの、臨時的・一時的な業務の増加に対応させるもの、一定期間を要する事業の完成のためのものなど、いろいろなケースがありますので、それぞれの個別具体的な事情に応じて適した契約期間を設定してください。少し長くなりましたが以上で、労働契約法の概要説明を終わります。
服部社長:
 大熊さん、ありがとうございました。人を雇う際に、これまであまり契約ということを意識していませんでしたが、これからは契約ということを意識し教えてもらったことに注意しながら、やっていきたいと思います。これからも、アドバイスをよろしくお願いします。
大熊社労士:
 こちらこそよろしくお願いいたします。ありがとうございました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は労働契約法の有期労働契約について取り上げてみました。有期労働に関し、もっともトラブルが多いのが契約終了時、いわゆる雇止めや解雇といわれています。例えば、契約期間の途中にも関わらず、パートタイマーだからとして安易に雇止めや解雇を行なった結果、個別労働紛争に至るケースなどが多く見られます。これを防ぎ、有期労働契約の労働者も安心して働けるようにルールを明確にしたのが第17条です。また、契約期間満了に伴う雇止めにおいて、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」の一部が改正され、雇止め予告の対象範囲が、1年以上継続した場合のほか、3回以上更新された場合が追加されました。これらに該当したときで、雇止めを行う場合は、30日前に雇止めの予告を行う必要がありますので注意してください。これで8回続いた労働契約法のシリーズは終了します。


[参考条文]
民法 第628条
 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。


労働契約法 第16条(解雇)
 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。


労働契約法 第19条(解雇制限)
1.使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によって打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない。
2.前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。


労働契約法 第20条(解雇の予告)
1.使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2.前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。
3.前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。



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2008年02月19日「厚労省よりダウンロードできる労働契約法のポイント資料」
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参考リンク
厚生労働省「労働契約法がスタート!~平成20年3月1日施行」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/index.html


(鷹取敏昭)


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