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コミュニケーションとはなにか?

 最近、「そもそもコミュニケーションとはなにか?」を原点に立ち返って、考えさせられる機会に遭遇しました。そこで今日はコミュニケーションの定義について、事例を交えながらお話したいと思います。


 先日、従業員50人程度の製造業の社長と面談を行い、人事に関する課題の抽出作業を行いました。そこでまず、社長ご自身が認識されている課題についてお伺いしたところ、真っ先に「労使のコミュニケーション」を指摘されました。実は、この会社は労使のコミュニケーションが比較的取れているものだと思っており、その課題を挙げられたときには意外に感じました。しかし実際にコミュニケーションの具体例をお伺いすると、その「まさか」という気持ちは、「これは重症かもしれない」に変わりました。社長が挙げたコミュニケーションの具体例とは、会議や打ち合わせ、その後の飲み会についての話ばかりだったのです。 


 確かに会議や打ち合わせという場でのコミュニケーションも重要です。こうした場でのコミュニケーションが十分に取れていないと、積極的な発言が生まれず、結果的に何も生み出されないという組織風土に陥りやすいというのは間違いないでしょう。また、いわゆる「飲みュケーション」についても、最近はあまり重要視されませんが、一昔前は部下が上司に愚痴をいう、気軽に相談するといった面から重要な役割を担っていました。しかし、コミュニケーションを取る場で会議の場や飲み会だけではありません。むしろそれよりも、朝や帰りの挨拶、業務の進捗確認、結果に対するアドバイスなど、業務中における声掛けの積み重ね、これがもっとも重要です。


 「コミュニケーション」を辞書で調べると、概ね「社会生活を営む人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合うこと。言語・文字・身振りなどを媒介として行われる」といった定義がされています。それでは「会議」はどのように定義されているのかといえば「関係者が集まって相談をし、物事を決定すること」とされ、本来は意思や感情、思考を伝達し合うという意味ではないことが分かります。


 みなさんは普段、部下とコミュニケーションと取られていますか?取られているとしたら真っ先にどのような場面を思い浮かびますか?コミュニケーションを取るということをどのようにお考えになりますか?こうした点について、上司と部下の間で感覚がズレていると、そのコミュニケーションは表面上は良くても、どこかぎこちないものになってしまう危険性があります。サラリーマンのうつ病などの問題により、労使コミュニケーションが重要とされている昨今、可能であれば労使で「わが社に求められるコミュニケーションとは?」というテーマで、一度議論することをお勧めします。その結果、コミュニケーションについてのみならず、今までまったく気付いていなかった経営課題が浮かび上がるかもしれません。


(志治英樹)

~事例~ 育児休業と不利益変更




当社の女性社員が育児休業を取得し、終了後復帰すると言ってきました。当社としても嬉しいことなのですが、育児休業は終了しても育児を継続することは事実なので、休業以前の職務を従前と同様にこなしていけるかどうか不安ですし、母体の心配もあります。本人も以前のように残業は出来ないと言っています。そこで復帰しても以前の業務が完全に遂行できない場合は他の職種への転換していただくことを考えており、軽易な作業への転換となった場合には当然に給与もその職務に見合った額に変更したいと考え、それを就業規則にも謳おうと思っています。これは育児休業を取得したことによる不利益取扱いとなるのでしょうか?



 育児介護休業法第10条は「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」としています。不利益な取扱いとしては、指針に9種類の典型例があげられており、「労働契約内容の変更の強要を行うこと」や「不利益な配置の変更をおこなうこと」等です。今回のケースがこの2例に該当するか否かがポイントとなります。


 具体的に見ていきますと、「労働契約内容の変更の強要を行うこと」は、労働者の表面上の同意を得ていたとしても、これが労働者の真意に基づくものではないと認められる場合には、これに該当するとしています。つまりいくら同意書を取ったとしても半ば強制的に同意をさせたものは無効であり不利益取扱いとされます。「不利益な配置の変更をおこなうこと」は、配置の変更が不利益な取扱いに該当するか否かについて、配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情については総合的に比較考量の上、判断すべきものですが、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより、その労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせることは、これに該当するとしています。


 よって、事業主と当人がきちんとお互いの状況、希望を話し合って、納得した上で職務内容の変更や給与変更といった労働契約内容の変更を行う必要があります。就業規則にも「職務遂行状況等を勘案し、必要があると判断した場合は、事業主と当該労働者で話し合いの場を設けることがあります。またその話し合いにより、お互いが納得した上で職務変更および職務に応じた給与変更を行うこともあります。」といった内容を盛り込むのが良いでしょう。


 今回のケースでは、本人からも残業はできないとの申出もあり、母体保護の観点からもまずは従前の業務を残業なしで遂行していただき、業務に支障が出てきた場合に初めて一度話し合いの場を設けてはいかがでしょう。打開策を検討・打診後、どうしても無理な場合は他の職務へ転換させることを再検討のうえ、給与の変更があるのであればその合理性を説明することが必要となるでしょう。誠意ある対応で本人同意を得ることで問題はないと考えます。


(赤田亘久)

育児・介護休業者への不利益取扱いの禁止

 育児休業・介護休業法が改正され、益々充実したものとなりました。労働者へ配慮する事項についてはよく目にすることと思います。今回は、育児休業・介護休業中の労働者に対して行ってはいけない事項に注目してみたいと思います。


 事業主は、育児休業・介護休業・子の看護休暇の申出をしたことや取得したことを理由として、労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはいけないこととなっています。では、どのようなことを不利益取扱いというのでしょうか。


 事業主に対して禁止される解雇その他不利益な取扱いは、労働者が育児休業、介護休業や子の看護休暇の申出をしたことや取得したこととの間に因果関係がある行為をいいます。


 具体的には以下となります。


1)解雇をすること。
2)期間を定めて雇用されるものについて、契約の更新をしないこと。
3)あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、その回数を引き下げること。
4)退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
※例え同意を得ていても、労働者の真意に基づくものでないと認められる場合は、不利益取扱いとなります。
5)自宅待機を命ずること。
※育児休業・介護休業の終了予定日を超えて休業すること、子の看護休暇の取得の申出以外の日に休業する事を強要した場合はこれに含まれます。
6)降格させること。
7)減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
※育児休業・介護休業期間中、子の看護休暇を取得した日について賃金を支払わない事、退職金や賞与の算定に当たり休業した期間・子の看護休暇をした期間を算定対象期間から控除すること等、休暇を取得した日を働かなかったものとして取り扱う事は不利益な取扱に該当しません。
しかし、休暇以上の日数を超えて働かなかったものとして取り扱うことは「不利益な算定」となります。
8)不利益な配置の変更を行うこと。
※配置の変更が不利益な取扱に該当するか否かは、配置前後のその人の将来に及ぼす影響などの様々な事情について総合的に比較し、判断されることなります。例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務や就業の場所の変更を行う事により、その労働者に相当程度経済的、精神的な不利益を生じさせることはこれに該当します。
9)就業環境を害すること。
※例えば、業務に従事させない、専ら雑務に従事させる等の行為をいいます。


 以上のような不利益取り扱いは、禁止されていますので行わないようにご注意下さい。なお、明日のブログでこの具体例をご紹介します。併せてご参考下さい。

急増する個別労働紛争解決制度の利用

 東京労働局は、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づく「個別労働紛争解決制度の平成17年度上半期の利用状況」を発表しました。以下がその実数ですが、ものすごい勢いで利用が進んでいることがわかります。



□総合労働相談件数 59,267件(1.0%増)
□民事上の個別労働紛争相談件数 8,350件(9.2%増)
□助言・指導申出受付件数 278件(98.6%増)
□あっせん申請受理件数 626件(58.5%増)



 平成17年4月から9月までの半年間において、都内21ヶ所の総合労働相談コーナーには、6万件近い総合労働相談が寄せられ、これらの相談の中で、労働関係法上の違反を伴わない民事上の個別労働紛争に関する相談は、8千件を超えるなど増加傾向が続き、制度発足(平成13年10月)以来、最高を記録し、制度の利用が進んでいます。


 民事上の個別労働紛争に関する相談の主な内容は、解雇に関するものが28.1%ともっとも多く、次いで労働条件の引下げに関するものが14.3%、いじめ・嫌がらせに関するものが11.1%、退職勧奨に関するものが7.9%と続いおり、解雇、退職勧奨等を含む退職に関するものは、全体の4割以上を占めています。また、相談内容について、前年度同期と比較すると、労働条件に関するものでは自己都合退職、出向・配置転換及び解雇に関するものが、次いで、その他の中ではいじめ・嫌がらせに関するものが、次いで、セクハラ・女性労働問題に関するものが増加しています。


 こうしたトラブルはやはり事業主の遵法意識の欠如に起因するところが多く、また就業規則をはじめとする社内規程の整備如何によって問題が発生しなかったであろうというケースも見受けられます。労務紛争の未然予防として社内規程整備は企業にとって喫緊の課題ではないでしょうか。


(神谷篤史)

パートタイマーと育児休業制度




 私は現在、週3日勤務のパートタイマーとして働いています。育児休業は、取得することのできる労働者の範囲が限られていると聞きました。正社員ではない私は育児休業を取得することはできないのでしょうか?





 育児・介護休業法の対象となる労働者は、パートタイマー・アルバイト等の名称は問いません。雇用契約期間が、①定められていない、②定められいる、という点が判断基準となります。


 ①の「期間の定めのない契約(実質を含む)」は、育児休業の対象労働者となります。
 ②の「期間を定めて雇用されている」場合は、育児休業の申し出時点において、次のいずれにも該当する場合に育児休業の対象労働者となります。
  ◇同一の事業主に引き続き雇用された期間が1年以上ある
  ◇子が1歳に達する日を超えて引き続き雇用されることが見込まれる
   (子が1歳に達する日から1年を経過する日までに労働契約期間が
     満了し、更新されないことが明らかである者は除かれます)


 なお、労使協定で定められた次の労働者は対象外となっています。
 ご注意下さい。


  ◇雇用された期間が1年未満の労働者
  ◇配偶者が子を養育できる状態である労働者
  ◇1年(1歳6ヵ月までの育児休業の場合は6ヵ月)以内に雇用関係が
   終了する労働者
  ◇1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
  ◇配偶者でない親が子を養育できる状態にある場合

平成17年夏季賞与結果は前年比1.3%のプラス~厚生労働省

平成17年夏季賞与 本日、厚生労働省より「平成17年夏季賞与の結果(確報)」の統計が発表されました。これによれば、平成17年の夏季賞与(平成17年6月~平成17年8月の「特別に支払われた給与」のうち、賞与として支給された給与を特別集計したもの)は、前年比1.3%増の410,618円となっています。最近の賞与に関する統計はすべてプラスの結果となっていますが、この統計においても同じ傾向が出ています。主な産業についてみると、製造業2.6%増、卸売・小売業1.8%増、サービス業2.4%増となっています。支給額のデータは通常賞与の支給対象とされる正社員だけではなく、常用労働者数を対象に計算されているために、業種によってはイレギュラーな数値が出ていますので、全体の増減傾向などをご参考いただくのが良いと思われます。


(大津章敬)

経営者が認識すべきリーダーシップ論「自己啓発意識の醸成」

 「企業は人なり」と言われますように、多くの企業で、社外研修やOJT(On the Job Training)など、様々な教育活動に力を入れておられます。ところが、いくら企業側が教育活動に力を入れたとしても、当の本人に、積極的に取り組りむ意欲が無ければ、いくら投資をしても好ましい成果を出すことは難しいといえます。せっかくの投資(研修費用、参加時間、参加の労力)がムダになっていることも決して少なくありません。


 そう考えますと、我々が教育活動をする上で、まずもって確認しておかなければならないことは、教育を受ける本人がどの程度「自己の成長」を願っているか、どの程度「自らの能力や意欲」を高める意識があるか、すなわちどの程度の「自己啓発意識)があるかという点において、しっかりと見極めておく必要があるということです。実際に、我々中小企業の現状は、研修などの教育活動に力を入れてはいるものの、社員一人ひとりがこうした意識を十分持ちえることが出来ず、結果として「やらされ」意識となり、それ故思うような成果を上げることができていないということがいかにも多いといえます。故に、社員教育に関しては何よりもまして、「自己啓発意識の醸成」という点に重点を置いた取組みがなされなければいけないといえます。


 それでは、社員一人一人に自己啓発の意識を持たせ、期待する行動を起こさせるためにはどうすれば良いのでしょうか?それには、自らを高めたいという欲求」を、何より強く持たせることです。欲求とは、「有るべき姿」と「現状」のギャップを埋めたいと思う心情です。したがって、欲求を持たせるためには、


○自分の有るべき姿(憧れ、目標)を明確に意識させる
○それとは異なる「現実の自分」を正しく認識させる


ことが何より必要となります。


 しかし、こうした「欲求」を持たせるだけで、期待する行動を起こすことができると断言するのはいささか乱暴であります。例えこうした「欲求」を持ちえたとしても、その「欲求」が行動に結び付くほど「強烈な欲求」ではなかったり、どのように行動に移せば良いのかわからないなどという状態では、行動に至ることは難しいといえます。したがいまして、社員に期待する行動を促進するためには、上司や周囲の方々の温かいサポートが必要になってくるのです。


 サポートとは、社員の行動様式が革新しやすい状況を作り出すことです。すなわち、


 ○欲求水準を“不断に高い状態”に維持させるような働きかけ
 ○その欲求を充足させるための方法を、“具体策”として明確にする


ことであります。


 人間の成長は、その人の意識の問題です。多くの知識や技能を与えても、受け入れるだけの「器」が無ければ、零れるだけです。何よりも、受け入れる「器」を広げる(=動機付ける)。これこそ、教育活動を行う上で我々が最も配慮しなければいけないポイントであります。

労働基準法における「管理監督者」の範囲

 昨日ご紹介した「神代学園ほか事件(東京高裁平成17年3月30日)」には、労働基準法第41条における管理監督者の範囲という、もう1つ大きな論点がありました。世間では「課長にすれば残業代が不要」などと言われることがありますが、その根拠とされるのが労働基準法第41条に言うところの管理監督者への労働時間に関する法規制の適用除外規定です。


 この管理監督者の範囲の問題は、時間外手当支給の取扱いが変わるという点から非常に重要な課題となっていますが、課長というような役職名ではなく、その者の勤務状態などの実態を見て判断され、具体的には以下の3点を充足しているかで判断が行われます。
1)経営に関する決定に参画する権限または労務管理に関する指揮監督権限がある
2)出退勤を始める勤務時間について自由裁量権がある
3)一般従業員と比較し、その地位と職責にふさわしい処遇を受けている


 現実の労務管理の状況を見た場合、以上の3要件の充足というのは実務上、非常に困難であるというのが実態ではないでしょうか。特に2)の要件は非常に厳しく、これを厳格に判断するとすれば、わが国の管理職の90%以上はこれを満たさないのではないかとさえ思えます。最近、マクドナルドの店長が会社を相手に時間外手当の支払いを要求する訴訟を起こしたというニュースが報道されていましたが、この提訴もこの管理監督者の範囲がその論点となっています。


 さて、この問題に関し東京高裁は今回、以下のように判事し、労働者側の請求を認めた上で時間外手当の支払いを命令しています。



「原告ら3名はいずれもタイムカードにより出退勤が管理され(中略)、原告が経営者である被告と一体的な立場において労働時間、休憩および休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を被告から実質的に付与されていたものと認めることは困難である。(中略)以上によれば、時間外手当支給の対象外とされる管理監督者に該当する旨の被告および被告学園の主張は採用することができない」




 今後、こうした事件が多く報道され、認知が進むにつれ、同様の請求は増加することでしょう。これまで労使間での暗黙の了解に基づき、積極的に触れられることがなかった論点ですが、今後は多くのトラブルを引き起こす火薬庫になっているように思えてなりません。今後行われるホワイトカラーエグゼンプション制度導入の議論により、前向きな解決が進むことを期待したいと思います。


参照条文:労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
1.別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2.事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの


(大津章敬)

残業禁止命令に違反して行われた残業に対する割増賃金支払義務

 今年の3月30日に東京高裁で下された労働時間に関する判決(神代学園ほか事件)は、なかなか興味深い内容を含んでいますので、ここでそのポイントをご紹介したいと思います。


 この判決にはいくつかの論点があるのですが、その中からここでは「残業禁止命令に違反して行われた残業に対する割増賃金支払義務の有無」という点を見ることとします。この事案では労働組合と会社の間で36協定締結に関する交渉がまとまらない状態において、会社が従業員に対し、1)朝礼等の機会および役職者を通じて繰り返し、36協定が締結されるまでの残業禁止という業務命令を出した上で、2)残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じ、徹底していました。このような状況下において、業務命令に反して行われた残業について、労働者側が割増賃金の支払いを要求していたのですが、東京高裁は以下のように判事し、その請求を棄却しました。



「賃金(割増賃金を含む。以下同じ)は労働の対償であるから、賃金が労働した時間によって算定される場合に、その算定の対象となる労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下にある時間、または使用者の明示または黙示の指示により業務に従事する時間であると解すべきものである。したがって、使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して労働者が時間外または深夜にわたり業務を行ったとしても(中略)賃金算定の対象となる労働時間と解することはできない」



 特に今回の事件では36協定未締結という状況であり、この残業禁止命令は労働者に時間外労働をさせない法的義務を履行するためのものであったこと、そして残務がある場合には役職者に引き継ぐという実務的な対応まで命令し、徹底していたことが決め手になったと考えられます。よってある意味では特殊な要素があることは否めませんが、労働時間の大原則は使用者からの業務命令に基づくものであるということを確認している点は実務を行う上においても、重要なポイントとなるでしょう。時間外労働および休日労働を行う際の申請および許可プロセスについて、問題がないか確認することをお勧めします。


(大津章敬)

労働契約法 報告書に見る注目事項[番外編 変更解約告知]

 現在、roumu.com blogで連載を行っております「労働契約法 報告書に見る注目事項」ですが、その中の[その8 雇用継続型契約変更制度]において、変更解約告知を取り上げました。読者の方よりこの内容に関するご質問を頂きましたので、今回は変更解約告知についてご説明したいと思います。


 変更解約告知とは、これまでの労働契約を一旦解消させ、同時に新たな労働契約の締結を相手方に打診するものです。使用者が従業員へ申し入れ、従業員がこの新たな契約への変更に応じなかった場合には、結果として労働契約は終了となり、当該従業員は解雇されるということになります。


 変更解約告知は、「ドイツでは労働契約上、職種や勤務場所が特定されることが多いので、それらの変更(主として配転)」に用いられることが多い(菅野和夫「労働法」P471)とのことですが、日本ではあまり立法的な手当がされていないため、馴染みが薄い制度ではないでしょうか。しかし実際に、この点に関して紛争となった事件がありますので、そのいくつかを見てみることにしましょう。
■スカンジナビア航空事件(東京地判 H7.4.13)
 以下の要件を満たした場合には、変更解約告知も有効であるとされた。
・労働条件変更が会社にとって必要不可欠
・上記必要性が、労働者が受ける不利益を上回る
・変更解約告知が、拒否した労働者を解雇するに足りるもの
・解雇回避努力がなされている


■大阪労働衛生センター第一病院事件(大阪高判 H10.8.31)
 使用者側に絶大な権力を持たせる結果となる当該制度を認めることは、日本の雇用慣行に馴染まない。解雇については整理解雇の要件と同レベルの厳格さが要求されるべき。(変更解約告知は無効)


 上記2つの裁判例は、変更解約告知に関して判断が下された有名な事件です。とはいえ日本においては、下段大阪労働衛生センターの見解が示すように、変更解約告知の適用に関してはどちらかといえば消極的で、それが故に未だ十分な議論がなされていないというのが現状です。変更解約告知の解釈について危惧される点を挙げれば、これを有効とすると、拒否した労働者は即解雇という大きな弊害がもたらされる危険性があるということです。契約変更の申出後、その是非が問われる間という、この間のいわば空白の期間を埋めるべく登場したのが冒頭に登場した雇用継続型契約変更制度というものです。これは労働者がその身分関係を維持しつつ、司法の判断を仰ぐことが可能な制度となっています。


  雇用継続型契約変更制度の新設に伴い、今後、変更解約告知に関するより突っ込んだ議論がなされることが期待されます。


(労働契約チーム)