[ワンポイント講座]1年単位の変形労働時間制における期間途中の入退職者の賃金清算

 4月となり新年度が始まりました。36協定などの届出も済んだところではないでしょうか。さて、労使協定と言えば、1年単位の変形労働時間制を採用している企業も労使協定の締結と届出が必要となります。そこで今回は1年単位の変形労働時間制を適用した場合の注意点について取り上げてみましょう。


 1年単位の変形労働時間制の対象者について、従来は「対象期間の初日に使用している労働者であって、その使用期間が当該対象期間の前日までに満了しないものに限る」とされていました。その後、この規定が削除され、労使協定において労働者の範囲で定めることで、途中に入社する者や退職する者についても対象とすることができるようになりました。


 しかし、このような変形期間の途中に入退社する者にも1年単位の変形労働時間制を適用することによって、勤務カレンダーどおりに働いた場合でも、繁忙期の所定労働時間が長い時期に当たるなどして、結果的に平均すると週40時間を超えているというケースが発生することとなります。この割増賃金の未払いという問題を解決するため、労働基準法第32条の4の2に「賃金清算」の規定が設けられています。


 具体的な清算については、次のような通達(平成11年1月29日 基発第45号)が出されています。それによると、清算が必要な労働者は、対象期間の末日を平成11年4月1日以降の日とする労使協定に基づく1年単位の変形労働時間制により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者とされています。そして、労働させた期間が当該対象期間より短い労働者に該当するか否かは、適用される1年単位の変形労働時間制ごとに、その労働者に関してあらかじめ特定された労働日およびその日の労働時間が変更されることになるか否かで判断することになります。例えば、複数の労働時間制を採用している場合で、異動により1年単位の変形労働時間制の適用となった場合、配転後においては途中採用者と同様に清算が必要となります。


 次に清算の計算方法については、労働基準法第37条により、途中退職者等については退職等の時点において、途中採用者等については対象期間終了時点(※当該途中採用者等が対象期間終了前に退職した場合は当該退職の時点)において、次のように計算することになります。
(1年単位の変形労働時間制により労働させた期間における実労働時間)-(40×実労働期間の暦日数÷7)-(法第37条第1項の規定に基づく割増賃金を支払わなければならない時間)


 それでは例を用いて解説します。以下の表に基づく1年単位の変形労働時間制が適用されている事業所において、Aさんが4月1日から9月30日まで勤務したとしましょう(時間外労働がなかったと仮定)。
4月 176時間 5月 152時間 6月 192時間
7月 184時間 8月 168時間 9月 176時間
10月 168時間 11月 168時間 12月 176時間
1月 152時間 2月176時間 3月 176時間


 まず、Aさんは勤務した期間が当初の設定期間である1年間より短いため、会社に清算義務が生じます。そして、勤務していた期間の所定労働時間は、4月1日から9月30日までの暦日数が183日であり、上記の表に基づいて4月から9月までの実労働時間を合計すると1,048時間となります。これを先ほどの式に当てはめると、「1,048-(40×183/7)=3時間」となることから、変形労働時間制に基づく勤務カレンダーどおりに勤務したとしても、3時間分については割増賃金を追加して支払う必要があります。


 このように、1年単位の変形労働時間制の適用者については、全期間勤務した者との均衡を図るため賃金の清算が必要になることがありますので、その点に留意が必要です。なお、1年単位の変形労働時間の対象労働者において、育児休業や産前産後休暇などの休暇を取得するために実際の労働時間が対象期間よりも短い者については、この清算は適用されません。


[関連法規]
労働基準法 第32条の4の2
 使用者が、対象期間中の前条の規定により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者について、当該労働させた期間を平均し一週間当たり40時間を超えて労働させた場合においては、その超えた時間(第33条又は第36条第1項の規定により延長し、又は休日に労働させた時間を除く。)の労働については、第37条の規定の例により割増賃金を支払わなければならない。


労働基準法 第37条
 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
4 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。


[関連通達]
平成11年3月31日 基発第169号
 本条は、途中退職者等雇用契約期間が同法第32条の4第1項第2号に規定する対象期間よりも短い者についての規定であり、休暇中の者などには適用されない。



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参考リンク
静岡労働局「1年単位の変形労働時間制について」
http://www.shizuokarodokyoku.go.jp/kijun/kantoku/kantoku28.html


(福間みゆき)


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