中国人事管理の先を読む!第11回「進出企業の人事制度(6)レンジ給②」

 基本給を設計する場合、各々等級に対し基本給の幅を持たせ、その幅の中で基本給を決定し、昇給運用を行っていくレンジ給の運用について、今回は3つのモデルを使って、それぞれの特徴をご説明します。

レンジ給②【レンジ給モデル①】
 モデル①は、下位等級の上限値と上位等級の下限値が同じ値になっている、つまり上下位の基本給同士が接しているものです。この基本給制度では、昇格しても基本給は連続性を持っており、このままでは昇格によるインクリースのメリットが得られまず、昇格によるインパクトが生じません。モデル①の基本給制度を運用し、社員に対する昇格モチベーションを喚起させるのであれば、以下の制度も同時に考えておかなければなりません。
(1)上位等級への昇格によってレンジにおける昇給ピッチを大きくする(上位の等級ほど昇給ピッチが早くなる)
(2)各々の等級に対する職務手当や等級手当のように、昇格によって給与総額がジャンプアップするような制度を組合わせる

【レンジ給モデル②】
 モデル②は、下位等級の上限値と上位等級の下限値を離しているケースです。この基本給制度の場合、昇格によって基本給自体がジャンプアップするため、昇格インパクトは必然的に発生することになります。この基本給制度の場合、一般職等級から管理職等級に昇格する際に更に大きく基本給がインクリースするように設計することによって、流出を防止したい管理職の給与水準に対する競争力を持たせたり、管理職のリテンション、昇格に対するモチベーションを喚起させることが可能となります。

【レンジ給モデル③】
 モデル③は、下位等級の上限値と上位等級の下限値が相互重なり合っているケースで、給与制度上、専門職制度を採用する場合等に多く見られます。この場合、お互い重なり合っている基本給値が昇格基準線ではありますが、昇格基準線を超えても暫くの期間は引き続きレンジの中での昇給は可能となります。しかし重なり合っている部分が大きすぎると、下位等級者と上位等級者の基本給の水準が逆転してしまい易くなりますので、重ねる場合でも25%程度(1/4程度)を限度にすることが理想的です。日本の人事制度では多く採用されていますが、中国では制度上の理解が得られ難いため、運用の主旨をしっかりと説明しておく必要があります。
(2011年5月4日 Bizpresso掲載記事)

[執筆者プロフィール]
清原学
株式会社名南経営 人事労務コンサルティング事業部
海外人事労務チーム シニアコンサルタント(中国担当)
 1961年兵庫県生。学習院大学経営学科卒。共同通信社、アメリカAT&Tにて勤務後、財団法人社会経済生産性本部にて組織人事コンサルティングに従事。大手エンジニアリング企業の取締役最高人事責任者(CHO)を歴任し、上海・大連・無錫・ホーチミン・香港の駐在を経て、2004年プレシード上海設立。中国進出日系企業約400社の組織構築、人事制度設計、労務アドバイザリー、人材育成に携わる。日本、中国にて講演多数。2011年からは株式会社名南経営にて日本国内での活動を行っている。
・独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー
・ジェトロ上海センター 人事労務委託業務契約
・財団法人 社会経済生産性本部コンサルティング部 経営コンサルタント
・兵庫県中国ビジネスアドバイザー
・神戸学院大学 東アジア産業経済センター アドバイザー


関連blog記事
2011年8月27日「中国人事管理の先を読む!第10回「進出企業の人事制度(6)レンジ給①」」
https://roumu.com
/archives/51869510.html

2011年8月21日「中国人事管理の先を読む!第9回「進出企業の人事制度(5)シングルレートの基本給」」
https://roumu.com
/archives/51868337.html

2011年8月20日「中国人事管理の先を読む!第8回「進出企業の人事制度(4)基本給の設計」」
https://roumu.com
/archives/51868281.html

2011年8月15日「中国人事管理の先を読む!第7回「進出企業の人事制度(3)等級とモチベーション」」
https://roumu.com
/archives/51866766.html

2011年8月14日「中国人事管理の先を読む!第6回「進出企業の人事制度(2)等級を設計する」」
https://roumu.com
/archives/51866732.html

2011年8月13日「中国人事管理の先を読む!第5回「進出企業の人事制度(1)グランドデザイン」」
https://roumu.com
/archives/51866570.html

2011年8月7日「中国人事管理の先を読む!第4回「成果やミッションで保有能力を評価する」」
https://roumu.com
/archives/51863086.html

2011年8月6日「中国人事管理の先を読む!第3回「賞与相場と支給額の決定」」
https://roumu.com
/archives/51863083.html

2011年7月31日「中国人事管理の先を読む!第2回「インフレ経済下における賃金管理」」
https://roumu.com
/archives/51863081.html

2011年7月30日「中国人事管理の先を読む!第1回「外国人の保険加入が義務付けに?」」
https://roumu.com
/archives/51863078.html

2011年7月23日「東海日中貿易センター「中国社会保険法の施行と在華就労外国人への適用」」
https://roumu.com
/archives/51861405.html

2011年7月12日「中国進出企業が押さえておきたい「中国社会保険法」の影響と対策セミナー パソナ様主催で開催(東京・大阪)」
https://roumu.com
/archives/51859813.html

2011年7月3日「当社中国人事労務コンサルタント清原学が東京投資育成様でセミナーを開催」
https://roumu.com
/archives/51856533.html

参考リンク
ビジネスフリーペーパー「Bizpresso」概要
http://bizpresso.net/about

(清原学)

当社ホームページ「労務ドットコム」にもアクセスをお待ちしています。

当ブログの記事の無断転載を固く禁じます。