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労務監査における労働時間制度のポイント その3:健康診断・電話当番

 今回も前回に引き続き、労務監査における労働時間監査のポイントについて解説させていただきたいと思います。今回は下記テーマのうち、5)健康診断の時間、6)休憩時間中の電話当番について解説します。
 1)準備作業、後始末の時間
 2)朝礼、訓示の時間
 3)研修時間
 4)持ち帰り労働
 5)健康診断の時間
 6)休憩時間中の電話当番
 7)手待時間、待機時間
 8)終業時間後の接待、宴会など


5)健康診断の時間
 健康診断については、使用者に対する労働者への健康診断実施義務と労働者の協力義務ないし受診義務がありますが、使用者が負う健康診断の実施義務とは次の健康診断を指します。
 1.雇入れ時の健康診断
 2.定期健康診断
 3.特殊健康診断
 4.結核健康診断
 5.じん肺健康診断


 使用者はすべて該当労働者に対し健康診断を実施しなければなりませんし、労働者もそれを受診する義務があります。すなわち労使双方に課せられた義務、協同義務ということができることから、健康診断の受診は必ずしも労働者の労務提供義務の履行とは言えず、使用者の指揮命令下の拘束時間とも言えないので、健康診断受診時間は必ずしも労働時間となるとは限りません。それではどのような場合が労働時間となるのか、具体的に検証したいと思います。


 特殊健康診断については、「特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、業務の遂行に絡んで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。また特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること」(昭和47年9月18日基発602号)と通達が示すように、特殊健康診断は使用者の人事配置によって特殊な有害業務に従事する者について実施されるものであるため、業務の従事要件をなしているという関連性を有し、労働時間であるとされています。


 一方、一般健康診断は「業務との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担とすべき者ではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと」(昭和47年9月18日基発602号)とし、労働時間とするかしないかは労使で決定し、当然には労働時間とはしないとされています。


 それでは労働者が医師を選択して健康診断を受診した場合はどうでしょうか。この場合は労働者が使用者の支配を離れて自己の医師選択の自由権を行使するものであるため、時間的場所的な拘束下にはなく、その経路も自由に選択できるため、労働時間にはならないと解されます。


6)休憩時間中の電話当番
 「来客の対応や電話の接受などは通常の業務であり、その労働のために当番として居残っているのはいわゆる手待ち時間であって、使用者の指揮命令下にいつでも労働しうるような状態で待機している時間だから、権利として労働から離れることを保障された時間ではなく、したがって休憩時間ではない」(昭和23年4月7日基収1196号)とあり、当番を決めて接客や電話応対のため居残りする場合はその時間は休憩時間ではないと解されます。


 しかし、当番制にせず、居残り等の拘束を課していない場合には、自由な休憩時間中にたまたま居合わせた社員が電話を受けたり、来客の応接をしてもそれが僅少の時間であり、労働者本人の自由任意意思で行う場合には労働時間には該当しません。


 次回は、7)手待時間/待機時間、8)終業時間後の接待/宴会などについて解説したいと思います。


(神谷篤史)

高年齢者雇用安定法改正のポイント 労働時間による手取額の違い

 高年齢雇用安定法の改正により、2006年4月以降、現在定年制を定めている企業では、1)定年延長、2)継続雇用制度導入、3)定年制廃止のいずれかの選択を迫られることになります。このうち、現実的には2)の継続雇用制度を選択する企業が相当数あると言われており、実際に多くのシンクタンクの調査においても継続雇用制度を導入する企業が多数を占めているという報告もあるようです。この継続雇用制度を導入する場合には、1)定年延長や3)定年制廃止と異なり、従来の処遇を引き継がないという考えが一般であり、本人の希望を考慮した上でパートやアルバイトといった形態で運用する方法がよく見られます。


 改正高年齢雇用安定法では、企業に対して雇用義務を課すものの、どのような形態で雇用するかまでは求められておらず、仮にパートやアルバイトとして勤務をさせたとしても、法改正に対応したものとして扱われることになります。従って、多くの企業が継続雇用制度を選択した上で、パートやアルバイトといった雇用形態で勤務することが予想されますが、ここにおいては労働時間と手取り賃金の関係について勘案して、労働条件を設定することが求められます。この検討を行なわないままに労働条件を設定すると、労働時間によっては、年金を含めた手取り額が逆にマイナスになる場合があるため注意が必要です。この場合の労働時間別の影響をまとめてみましょう。
1.労働時間が週20時間未満である場合
 雇用保険や社会保険への加入がないため、年金を含めた手取り額が調整されることはない。
2.労働時間が週20時間以上30時間未満である場合
 1年以上の雇用継続が見込まれる場合には、雇用保険への加入が求められます。給与額によっては高年齢雇用継続給付が受給できる場合があります。社会保険への加入がないため、年金が支給停止になることはありません。
3.労働時間が週30時間以上の場合(概ね常勤社員の4分の3以上勤務をしていること)
 雇用保険および社会保険への加入が必要となるため、その後の給与額によっては、年金額の一部が支給停止となる場合があります。


 上記から本人の手取りをある程度保障するには、1またはび2の選択肢が有力となります。しかし、短時間勤務によって、そもそもの業務が中途半端になっては本末転倒ですので、雇用継続の目的を改めて検討し、慎重に雇用形態を決定されることをお勧めします。


(服部英治)

人事労務管理において絶対に行なってはならないこと

 日頃、中小中堅企業の人事制度改定や労務管理体制の整備などのお手伝いをさせて頂いておりますが、セミナーを開催すると受講者のみなさんから「人事制度改定を成功させるポイントは何ですか?」という質問を受けることが良くあります。「職種/等級別の人事評価制度を整備して、賃金制度も個人の業績を反映したメリハリのあるものにすること」という回答をするコンサルタントも多いと聞きますが、私はまったくそうは考えていません。


 私がもしこのような質問を受けたとすれば、「人事制度改定を成功させるためのポイントはいろいろあり、またそれはその企業によっても変わるため、特定することは難しいですが、逆に絶対に行なってはならないことが1つあります。それは正直者がバカを見るようなことだけは絶対に行なってはいけません」と答えるでしょう。


 非常に頑張って成果を挙げた社員と、残念ながら十分に実力を発揮できなかった社員がいた場合、やはり前者の社員の成果についてその事実を認め、適切な評価を行なわなければ、間違いなく「頑張って損した。やるんじゃなかった」と感じ、大きなモティベーションの低下を招くことになるでしょう。文字通り、正直者がバカを見ている状態です。これを行なってしまうと、確実に組織風土は低迷し、プラスの行動は見られなくなり、組織業績は低迷を続けることになります。


 よって人事労務管理においては「正直者がバカを見ない」ことを最低ラインとして環境整備を行なうことが求められます。具体的には部下とのコミュニケーションの充実を通じ、その行動や成果をまずは「認める」ことからスタートしましょう。これがすべての基本です。良い行動や成果があればその場でそれを認め、その行動が如何に組織にとって価値があるのかを伝えることが何よりも重要です。最終的には人事評価制度で半期の行動および成果を棚卸し、適切な評価を行なうことで、賃金や賞与などに連動させることも求められます。しかし、それはあくまでも結果としてお金にも反映させなければならないということであって、単に賞与のメリハリをつければ良いという話ではないことは言うまでもありません。人事活性化というと、どうしても人事賃金制度改革と考えがちですが、それ以前に、もっと身近な労使コミュニケーションのあり方を見直したいものです。


(大津章敬)

労務監査における労働時間制度のポイント その2:研修・持ち帰り労働

 今回も前回に引き続き、労務監査における労働時間監査のポイントについて解説させていただきたいと思います。今回は下記テーマのうち3)研修時間および4)持ち帰り労働について解説します。
 1)準備作業、後始末の時間
 2)朝礼、訓示の時間
 3)研修時間
 4)持ち帰り労働
 5)健康診断の時間
 6)休憩時間中の電話当番
 7)手待時間、待機時間
 8)終業時間後の接待、宴会など


3)社員研修
 社員の教育、研修、訓練等は多くの企業で行われていますが、会社の指示で参加を義務付けられている研修は労働時間と解されます。更に、明示の業務命令によらないものでも、以下のような場合には労働時間と解されることが多いので注意が必要です。
□当該社員の職務内容そのものに関する研修
 職務内容そのものの研修は原則として社員の職務遂行といえます。したがって、職務内容の研修については自由任意参加でない限り労働時間として取り扱われます。一方、使用者が研修に参加する際に許可を得るよう社員に求め、それを知りながら社員が指示違反をし研修に参加した場合は、職務命令を逸脱した行為として認められるため、使用者があとで業務遂行として追認しない限り、労働時間とは解されません。


 職務内容に密接に関連する研修については、職務内容そのものの研修に準じた取扱がされますが、社員が業務に密接に関連するとして拘束感ないし義務感により研修に参加し、客観的にみて業務との関連性が薄い場合は、社員が業務関連性が高いと誤解することが具体的な事情から判断して必然だという相当な理由があり、使用者がその研修への参加を事前に知りえた場合、使用者が自由任意参加を指示しない限り、労働時間と解されます。


□職場規律の維持向上、職場環境の保持向上に関する研修
 それでは職場規律や企業秩序の維持向上、職場環境改善や業務効率向上といった目的で行なわれる研修についてはどうでしょうか。労働者がこれらを目的とする研修に参加することは、労働契約の本質上当然要請される行為であるため、自由任意参加を明示していない限り労働時間に該当します。裁判例にも「労務の提供が事業体の中で有機的に行われている現代の企業のもとにおいては、なによりも職場における規律と協同が重んじられ、これなくしては多数の労働者による円滑な共同作業は不可能であるから、労働力の協調性ないし規律を遵守する精神の増進を図ることは、業務遂行に直接必要なものとして当然に労働契約の中に含まれると解すべきであるから、本件研修はいずれの意味においても業務命令をもって参加を命じる研修の範囲内にあるということができると解される」(昭和48年6月19日 国鉄静岡管理局事件)とあります。


□安全衛生、法令に関する研修
 「安全衛生教育については所定労働時間内に行うのを原則とすること。また安全衛生教育の実施に要する時間は労働時間と解されるため、当該教育が法定時間外に行われた場合には、当然割増賃金が支払われなければならないものであること」(昭和47年9月18日基発602号)とあるように、法定の安全衛生教育の時間は労働時間と解されます。また企業独自の安全衛生教育であっても、自由任意参加が明示されていないときは、労働者として自己および同僚労働者の生命、身体、健康を守るため必要なものであるため、労務提供上の基礎的、前提的事項であり、原則として労働時間として解されます。避難訓練などについても、「使用者が消防法の規定により法定労働時間を超えて訓練を行う場合においては、時間外労働として労働基準法第36条による協定を締結したうえで行われなければならない」(昭和23年10月23日基収3141号)とあり、労働時間と解されます。


□社内の英会話スクール、コンピュータ講座など
 社員の海外派遣にあたりその語学力を向上させるために英会話スクールを受講させたり、電算部門への配属者を対象に業務上の必要のためコンピュータ講座を受講させたりするケースがあります。こうした教育研修については、業務の必要上、明示の指示があればこれらの時間は労働時間と解されます。しかし、一般の従業員を対象に実施される場合、たとえそれが昇格条件となっていたとしても受講の諾否を従業員の自由意思によって決定できる場合には当該時間は労働時間となりません。


□合宿研修中の早朝・深夜討議、レポート作成時間
 合宿中の早朝、深夜討議について、予め研修計画にて必須課業として組み込まれており、参加が義務付けられている場合はもちろん、建前上は自由参加であっても実態として強制参加である場合には労働時間と解されます。一方、翌日提出の宿題としてレポートなどが要求された場合には、その作成時間、場所の拘束がなく裁量的なものであれば自宅学習時間と同様と解され、使用者の指揮命令下に業務を遂行する時間ではないため、労働時間とはなりません。


4)持ち帰り労働
 労働基準法の規制する労働とは、使用者の指揮命令下の従属的労働であり、規制の対象となる労働時間とは使用従属下の労働の時間です。したがって労働者が指揮命令下に拘束された従属的労働に従事している労働時間とされるには、以下のような条件が必要とされます。
 □一定の場所的な拘束
 □一定の時間的な拘束
 □一定の態度ないし行動上の拘束
 □一定の労務指揮的立場から行われる支配ないし監督的な拘束
 □一定の業務の内容ないし遂行方法上の拘束


 自宅における労働はこのいずれの要件も充足しないため、基本的に労働時間ではないと解されます。しかし、この持ち帰り労働の対価をどのように扱うかという問題は残ります。この時間は労働時間ではないため、労働基準法によることができず、民法上の契約として取り扱われることとなります。民法上仕事の依頼を受けてそれを処理する契約は「法律行為に非ざる事務の委託」を受けてそれを「なすことを承諾」したものと考えられるため、民法第656条の準委任に該当もしくは類似する契約となります。仮に持ち帰って事務処理を行うことを労働者が承諾した場合には、善良なる管理者の注意義務を以ってその事務を処理する義務を負い、委任者の請求があればいつでも事務処理状況を報告し、事務の終了時には遅滞なくその顛末を報告しなければなりません。費用は請求できますがその事務処理の対価としてその報酬は特約がない限り請求できません。すなわち、持ち戻り労働は、労働時間には該当せず、その事務処理の対価を取り決めていないと具体的請求権は発生しないと解されます。


 次回は、5)健康診断の時間、6)休憩時間中の電話当番について解説させていただきます。


(神谷篤史)

小学校就学前の子を養育する労働者への措置





 以前、事業主は3歳に満たない子を養育する労働者について、労働時間を短くしたり、残業させないようにするなどの勤務時間短縮等の措置を講じなければならないと聞き、当社では急遽「所定外労働をさせない制度」を導入し、運用しています。ところが最近小学校入学前までの子を養育する労働者に対しても育児休業制度か勤務時間短縮等の措置に準じて必要な措置を講じないといけないと聞きました。もし、本当ならばまた社内のルール整備をしなければいけないと思っています。 本当なのでしょうか?






 結論を先に申し上げると、現段階では小学校入学前までの子を養育する労働者に対して育児休業制度か勤務時間短縮等の措置に準じて必要な措置を講じる必要はありません。もっと正確に申し上げると、3歳から小学校就学前までの子を養育する労働者に対しては、必要な措置を講じる義務はなく、これは努力義務とされています。子が生まれてから、小学校就学の始期に達するまでの流れを見ていくと以下のようになります。


① 0歳~1歳(1歳6ヶ月)未満
 <育児休業> → (事業主の義務)


  子供が生まれた場合、労働者から申出があれば1歳(一定の要件に該当した場合は上限1歳6ヶ月)までの育児休業を与えなければいけません。ただし、育児休業をすることができないこととする労使協定がある場合は申出を拒否できます。


② 1歳(1歳6ヶ月)~3歳未満
 <勤務時間短縮等の措置> → (事業主の義務)


 育児休業終了後、3歳未満の子を養育する労働者には、勤務時間短縮等の措置を講じなければいけません。
  
③ 3歳~小学校就学の始期に達するまで
 <勤務時間短縮等の措置> → (事業主の努力義務)


 3歳に達した日の翌日から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者には、勤務時間短縮等の措置(事業主の努力義務)を講ずるように努めなければいけません。これは努力義務の為、必ず制度を設けて運用しなければならないということはありません。


  最後に、小学校に入学するまでの子を育てる労働者が利用できる短時間勤務制度、フレックスタイム制等の勤務時間短縮等の制度を新たに就業規則等に規定し、3歳以上の子を育てる労働者に実際に利用させた事業主に対し、奨励金が支給される「育児両立支援奨励金」があります。詳しくは財団法人21世紀職業財団のホームページをご参照下さい。
 (http://www.jiwe.or.jp/index.html

労務監査における労働時間制度のポイント その1:準備作業・朝礼

 本日より労務監査における監査のポイントの解説を行っていきますが、その初回は最近の労働基準監督署が調査でもっとも多くの指摘がなされている労働時間と割増賃金に関する事項を取り上げましょう。


 労働基準法では、1日8時間、1週40時間労働の原則がありますが、そもそも、この労働時間の範囲が問題になることがあります。この点に関し、最高裁は「労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間をいい、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めの如何により決定されるべきものではない。」(最高裁平成12年3月9日 三菱重工長崎造船所事件)と判示しています。すなわち労働時間は、作業開始から終了までの時間から、休憩時間を差し引いた実働時間を差すとしているのです。それでは次のような時間は労働時間となるのでしょうか。一般的は労働時間と解するべきかどうか判断に迷うところではないでしょうか。
 1)準備作業、後始末の時間
 2)朝礼、訓示の時間
 3)研修時間
 4)持ち帰り労働
 5)健康診断の時間
 6)休憩時間中の電話当番
 7)手待時間、待機時間
 8)終業時間後の接待、宴会など


 今回はこの中から1)および2)について、具体的事例を交え、詳細に検討したいと思います。
1)準備作業、後始末等の時間
 一般的に作業前の更衣、作業準備を要する業務が多いかと思いますので、このそれぞれについて検討してみたいと思います。
□作業準備時間
 明確な基準を示すのは困難ですが、三菱重工長崎造船所事件(最高裁平成12年3月9日)では、「造船現場に従事していた者は、使用者により材料庫等からの、副資材や消耗品な等の受け出しを午前ないし午後の始業時刻前に行うことを義務付けられており、また労働者のうち、鋳物関係の業務に従事していた者は、粉塵が立つのを防止するため上長の指示により午前の始業時刻前に月数回散水することを義務付けられていた」場合について、その時間を労働時間としています。すなわち、作業準備時間はそれが一定の時間的、場所的、行動的に拘束され、自由意思ではなく指揮命令下にあるときは労働時間となり、それ以外の自主的、自発的なものは、通常労働基準法上の労働時間とはならないと解されています。
□更衣時間
 所定部署につく以前の作業服への着替え、保護具の装着などは労働時間ではないと解するのが通説ですが、例えば会社の命令(就業規則その他の社則または慣行)として一定の時間に所定の更衣室において使用者の指揮命令を受けて更衣することが義務付けられ拘束されており(社外での着用が禁止されている)、かつ服装についての点検がその場でなされる場合、一般従業員とは違うその業務の性質上特殊な服装をしなければならない場合は労働時間と解される場合があるため、注意が求められます。
□後始末の時間
 作業開始と同様に使用者の直接的な指揮命令下で行われるときは一般的には労働時間と解されます。
□作業後の入浴
 労働安全衛生規則第625条は、「事業者は身体または被服の汚染するおそれのある業務に労働者を従事させるときは、洗顔、洗身もしくはうがいの設備、更衣設備または洗濯のための設備を設けなければならない」としていますが、入浴時間までが制限されている訳ではなく、指揮命令下にあるとは言い難いため、入浴時間は労働時間でないと解されています(昭和23年10月30日 基発1575号)


2)使用者が一斉に行う朝礼、訓示の時間等
 次に、朝礼や訓示の時間、職場体操時間が労働時間に該当するかどうかについて考えてみましょう。これらについても具体的に実質的に判断しなければなりませんが、基本的に以下のような場合には労働時間と解されるでしょう。
□参加が強制されている場合
 業務上の義務の一つとして強制的に行われている場合は労働時間となります。
□参加しないと不利益になる場合
 朝礼参加状況を賞与の支給や人事考課の査定に加えること、参加しない場合は遅刻とみなすといった不参加について不利益な取り扱いをする場合は、参加を強制することと同じですので労働時間となります。
□当番で報告や指揮をとる場合
 自主的活動ではなく使用者の命令によって訓示や注意事項などを当番によって行う場合には労働時間となります。
□点呼をとったり、作業手順の説明をする場合
 「駅務員の点呼について、出勤点呼は単に出勤したことの報告にとどまらず、当日の担当交番、始業時刻、心身の状態、励行事項等を読み上げる等して、各駅務員と駅務員を監督する立場にある助役等の上司とが当日の勤務内容、心身の異常の有無を確認し、勤務に就く心構えを整えるために行われること等から労働時間になる」(平成14年2月28日 東急電鉄事件)とあるように、点呼をとったり、作業手順の説明をするような場合については労働時間となります。
□職場体操の時間
 体操が自由参加のものとして行われている限り労働時間として算入する必要はありません。参加が強く奨励されていて義務付けとまではいえなければ労働時間ではないとの判例にもあるように、労働者が職場体操について強制されておらず、自由に参加してよいことが保障されている時間と見ることができる場合には労働時間とはなりません。


 このように労働時間に該当するか否かについては、明確な基準があるわけではなく、実質的に判断しなければなりません。もし判断に迷われた場合は、上記内容を参照していただければ幸いです。


 次回は3)研修時間、4)持ち帰り労働について解説させていただきたいと思います。





□参照条文
労働安全衛生規則第625条(洗浄設備等)
 事業者は、身体又は被服を汚染するおそれのある業務に労働者を従事させるときは、洗眼、洗身若しくはうがいの設備、更衣設備又は洗たくのための設備を設けなければならない。
2 事業者は、前項の設備には、それぞれ必要な用具を備えなければならない。


(神谷篤史)

部下から信頼を得る

 通常、お客様から信頼を得るという行動はビジネスパーソンであれば、誰しもが意識することだと思います。しかし、お客様を「部下」と置き換えた場合でも、その信頼を得ることを意識してますでしょうか?


 部下から信頼を得るということは、部下の業務に対するモチベーションを上げ、業務遂行能力を高める効能があります。また、モチベーションが上がれば仕事に対する楽しさも出てくるため、有能な人材の流出も防ぐことができます。「業務内容も楽しいし、もちろん生活のためでもあるけど、この上司と一緒に仕事をすることが何より嬉しい」と言わせればしめたものです。


 また部下からの信頼を得れば、上司としても自らの業務遂行力が上がります。人間、誰しも好意を持たれて嫌だと思う人はいませんし、信頼というのは「信じて頼る」こととされ、好意を持たれれば人間はそれに応えようと努力します。信頼の積み重ねは会社・上司・部下、またその先のお客様にとっても良い相互作用となるのです。


 あなたは本当に部下から信頼を得ていますか?得ているような行動や言動を取っていますか?もし、信頼を得ていないと感じるようであれば何が原因かを見つめ直してみて下さい。
 □仕事に対する考え方・・・時間を守るか、いい加減な仕事をしていないか
 □お客様に対する考え方・・・お客様を馬鹿にしたような発言はないか
 □会社に対する考え方・・・会社の愚痴ばかり話していないか
 □身なり、素振り、話し方・・・汚い格好をしていないか、話し方に嫌味はないか
 □部下との会話内容・・・部下の理念と外れた発言をしていないか
 
 とりあえず5つの「部下から信頼を失う」原因を挙げましたが、5つの中で一つでも気が付くことがあれば、その原因について注意してみましょう。管理職は部下から信頼され、尊敬されるのも業務内容の一つです。部下を信頼し、部下から信頼され、お客様から信頼される、信頼のネットワークを内外に広げて、それを会社の業績アップへと繋げていきましょう。


(志治英樹)

育児休業等に関し事業主が講ずべき措置(その1)

 これまでこの週末の「育児介護休業法に関するブログ」では、改正の背景に始まり、概要、育児休業に関連した事業主の義務を紹介してきました。本日は「事業主が講ずべき措置 その1」として、①育児休業に関連してあらかじめ定めるべき事項等、②雇用管理及び職業能力の開発向上等に関する措置、③育児のための勤務時間の短縮等、の3項目について解説したい思います。


1)育児休業に関連してあらかじめ定めるべき事項等
・あらかじめ定め、これを周知するための措置を講ずるよう努力しなければならない事項は次の3点です。
①賃金その他経済的給付、教育訓練の実施など、育児休業中の待遇に関する事項
②復帰後の賃金、配置その他の労働条件(昇進、昇格及び年次有給休暇に関する事項)に関する事項 
※なお、年次有給休暇に関する出勤率の算定には、労働基準法の定めるところにより、休業した期間は出勤したものとみなさなければなりません。
③育児休業が終了した場合の労務の提供の開始時期に関する事項


これらは一括して就業規則などに定めておくことが望ましい項目です。
また上記は、休業を申し出た対象労働者にあてはめた具体的な取扱を明示するよう努力しなければなりません。そしてその明示は文書の交付によって行うこととされています。


2)雇用管理及び職業能力の開発向上等に関する措置  
・休業後は原則として、原職あるいは原職相当職に復帰させるように配慮することが必要です。
 したがって、復職を前提としてその他の労働者の配置などに工夫をくわえていくことが望まれます。
・また、休業中の労働者の職業能力の開発及び向上に関して必要な措置を講ずるよう努力しなければ なりません。その際は、本人がその適用を受けるかどうかを選択できるものでなけらばなりません。
 また、労働者本人の職種、職務上の地位、職業意識等の状況に的確に対応し、かつ計画的に実施されることが望ましいものです。
   
3)育児のための勤務時間の短縮等の措置
・1歳未満の子を養育する労働者で育児休業をしないものに関して次のいずれかを、1歳以上3歳未満の子を養育する労働者に関しては育児休業に準ずる措置または次の措置のいずれかを講じなければなりません。これは上の2つと違い、義務になります。
①短時間勤務の制度
②フレックスタイム制
③始業、終業時刻の繰上げ、繰下げ
④所定外労働をさせない制度
⑤託児施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与


※この措置については日々雇い入れられる者は対象となりません。


 もちろん労働者がこれらの措置の適用を申し出たり、受けたことを理由として、解雇その他不利益な取扱をしてはいけません。
 また、この法律に規定する育児のための勤務時間の短縮等の措置と労働基準法に規定する育児時間は別々に実施する必要があります。

~事例~ 育児を行う労働者の深夜業の制限




 育児・介護休業法には、子供を養育する従業員に対して深夜業をさせてはいけないという規定があると聞きました。当社は食品製造業のため3交替制による24時間体制で工場を操業しております。このたびある深夜勤務の従業員(午後10時~翌朝5時勤務)から、「育児のため深夜勤務を免除させて欲しい」との申し入れがありましたが、これは断って良いのでしょうか。


 育児介護休業法第19条第1項によると、『小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、その子を養育するために請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、午後10時から午前5時までの間(以下「深夜」)において労働をさせてはならない』と規定されています。その為、従業員からの請求があれば原則深夜業務に就かせることはできません。


 ただし、上記条件を満たした方であっても、深夜業務の制限を請求することができない労働者もいます。その中には、『請求できないこととすることについて合理的な理由があると認められる労働者』があります。これは下記の労働者が該当します(則第31条の12)。
 1)1週間の所定労働日数が2日以下の者
 2)所定労働時間の全部が深夜にある者


 このいずれかに当てはまる場合、従業員から請求をすることはできないということになっています。今回は上記の2)に該当するため、例え従業員から請求をされても、これを断り、勤務して頂くことは問題ありません。なお、深夜勤務は困難だが昼間勤務での就業を希望している場合には、昼間勤務への転換等に関する事項を定め、これを労働者に周知させるための措置を講ずるといった対応が望まれます。

育児を行う労働者の時間外労働の制限

 今回は、育児・介護休業法の『育児を行う労働者の時間外労働の制限』について、ご説明します。


 小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、その子を養育するために請求した場合、1ヶ月について24時間、1年について150時間を超える時間外労働をさせてはいけません(事業の正常な運営を妨げる場合を除く)。
但し、次のような労働者は請求できません。
・その事業主に継続して雇用された期間が1年に満たない者
・配偶者が常態としてその子を養育することができると認められる者
・その他合理的な理由があると認められる者(厚生労働省令で定める)


いくつかのポイントをご説明します。


1)時間外労働について
 制限の対象となるのは、法定労働時間(原則:1日8時間、1週間につき40時間)を超える労働です。それぞれの会社等で定める所定労働時間の超過とは判断が異なります。


2)請求できる労働者の範囲について
 日々雇い入れられる者は請求できませんが、期間を定めて雇用される者は請求できます。
・パートやアルバイトの方も、請求できます。
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は、請求できません。


3)『配偶者が常態としてその子を養育できる』とは、次の①~④のいずれにも該当する場合です。
①職業に就いていないこと
 (育児休業中、1週間の就業日数が2日以下の場合も含む)
②負傷、疾病などにより、子の養育が困難な状態でないこと
③6週間(多胎妊娠は14週間)以内に出産予定でなく、又は産後8週間以内でないこと
④請求に係る子と同居していること


4)請求について
 1回につき、1ヶ月以上1年以内の期間について、その開始の日及び終了の日を明らかにして、制限開始予定日の1ヶ月前までに書面で請求する必要があります。


 届出すべき内容は、
  ・請求の年月日
  ・労働者の氏名
  ・請求に係る子の氏名、生年月日及び労働者との続柄
  ・制限を開始しようとする日及び制限を終了しようとする日
  ・請求に係る子が養子である場合には養子縁組の効力発生日
  ・常態としてその子を養育することができる配偶者等がいないこと
 ※請求は何回もすることができます。
 ※事業主は、労働者に子の出生等を証明する書類の提出を求めること
  ができます。



また、時間外労働の制限は、労働者が子を養育しなくなった場合、子が小学校就学の始期に達した場合や、労働者が産前産後休業、育児・介護休業が始まった場合に終了します。
労働者が時間外労働の制限の請求がしやすいように、あらかじめ制度を導入し、就業規則に定める等の配慮が事業主に求められています。