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残業は命令できるのか?




 当社は和菓子製造・販売業ですが、業種柄、毎年お歳暮やお中元の時期は多忙のため、工場従業員や店舗従事者とも、長時間労働を余儀なくされています。ところがこの度、ある従業員に、「子供を迎えに行かなければならないので、今日は残業をすることができない」と申し出を受けました。いままでに残業拒否を申し出た従業員はいなかったため、対応の仕方がわかりません。会社として、そもそも残業命令を行っても良いのでしょうか。なお、36協定届は法定通り労働基準監督署へ届け出ています。


 貴社は36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を締結し、労働基準監督署へ届け出ていますので、刑事上の処罰は免責されます。しかし、これのみでは足らず、従業員に残業を命ずるにはその旨を就業規則等に定めなければなりません。


 具体的には、就業規則等に「業務上やむを得ない事由のある場合には、時間外勤務を命ずることがある」といった定めをしておきます。このような「合理的な理由があるときは時間外労働をさせることがある」との定めがないと、会社から残業を命令する権利、従業員がこれに応ずる義務といった民事上の根拠は存在しないことになります。


 以上から、就業規則等に記載があれば、会社として残業を命令することは可能です。ただし、規定の仕方が上記のように「業務上やむを得ない事由のある場合には…」といった一般的なものである場合、従業員側に相当な理由がある場合にはこれを拒否することもできるものであると解される場合があります。そのため今回のように、子供の送り迎えといった事情については、双方納得のいくように、個別の話し合いによる対応が望まれます。
 
 なお、この場合の「子供」が小学校入学前の子である場合、別途育児・介護休業法による勤務時間短縮等の措置に係る義務(第23条第1項、年齢により努力義務)が生じるため、こちらもご注意頂きたいと思います。



参考リンク
労務ドットコムブログ「育児休業等に関し事業主が講ずべき措置(その1)」
https://roumu.com
/archives/50264955.html


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兼業と労働時間管理、割増賃金の支払義務

 本日は、兼業を認めた場合の労働時間のカウント方法、割増賃金の支払義務について、ご紹介します。


 労働基準法第38条は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定しています。つまり、事業主を異にする事業場において労働する場合も時間を通算し、法定労働時間を超過するのであれば割増賃金の支払義務が生じることになります。


具体的には以下のようになります。
 前提)A会社・B会社ともその労働者が兼業している事を知っており、
    またB会社がA会社の後で労働契約を結んでいる。


A会社(4時間)の後、B会社(5時間)で勤務する場合
  →B会社で1時間分の割増賃金支払義務が発生


A会社(5時間)の後、B会社(4時間)で勤務する場合
  →B会社で1時間分の割増賃金支払義務が発生


A会社(4時間)の後、B会社(4時間)で勤務する契約であるが、
  たまたまA会社で5時間勤務してしまった場合
  →A会社で1時間分の割増賃金支払義務が発生


A会社で常勤勤務(8時間)の後、B会社でアルバイトをする場合
  →B会社での労働時間すべてが割増賃金支払義務発生
   ※例えば愛知県の最低賃金は688円/時ですので、B会社では最低でも
    その25%割増の860円以上の時給で雇用契約を結ぶ必要があるということになります。


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パートタイマーにも定期健康診断を受診させる必要があるか

 最近、雇用形態の多様化という言葉をよく耳にするようになりました。パートタイマーを初めとしたいわゆる非正規社員の増加は著しいものがあります。そこで今回は、パートタイマーにも定期健康診断を受診させる必要があるか(定期健康診断の受診労働者の範囲)について取り上げてみましょう。
■質問
 当社では社員は5名、パートタイマー・アルバイト10名で業務を行っています。社員には毎年1回の健康診断を実施していますが、パートタイマー・アルバイトについてはこれまで実施していません。先日、パートタイマーの方から「私も健康診断を受けたい」という申し出がありました。パートタイマーの方に対しても実施する必要があるのですか?


■回答
【結論】
 一定の基準満たすパートタイマーについては健康診断を実施する必要があります。


【解説】
 まず定期健康診断は、労働安全衛生法第66条および労働安全衛生規則第44条でその実施に関する事項が定められています。ここでは、「常時使用する労働者(第45条第1項に規定する労働者を除く。)に対し」て行わなければならないと規定されていますが、具体的な労働者の範囲については、法律に明確な定めがあるわけではありません。その上で「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」(平成5年12月1日基発第663号)という通達が、実施すべき労働者の範囲を以下のように明確に定めています。



 1週間の所定労働時間が、同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の労働時間の4分の3以上であり、かつ、雇用期間がのいづれかに該当する労働者については健康診断を実施する必要があります。
雇用期間の定めのない者
雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年(※)以上使用される予定の者
雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年(※)以上引き続き使用されている者
  ※特定業務従事者は6ヵ月


 なお、1週間の所定労働時間が2分の1以上の労働者については実施することが望ましいとされています。


 従って、御社でも上記の範囲に該当するパートタイマー・アルバイトについては定期健康診断を実施する必要があります。この範囲は社会保険に加入すべき範囲と似通っており、実施対象者選定の際には参考にできるかと思います。


■まとめ
 定期健康診断の費用については、事業主負担とされており、受診者が増加することで費用の負担も重くならざるを得ません。しかしながら、「健康であるからこそ業務の遂行ができるのだ」という考えのもと、対象者全員の健康診断実施に取り組む必要があるといえるでしょう。





参考条文
労働安全衛生法 第66条 第1項
 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。


労働安全衛生規則 第44条 第1項
 事業者は、常時使用する労働者(第45条第1項に規定する労働者を除く。)に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
1 既往歴及び業務歴の調査
2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
3 身長、体重、視力及び聴力の検査
4 胸部エックス線検査及び喀痰検査
5 血圧の測定
6 貧血検査
7 肝機能検査
8 血中脂質検査
9 血糖検査
10 尿検査
11 心電図検査





 参考リンク
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について(平成15年10月1日改正基発第663号)[pdf]~厚生労働省[pdf]
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/151010-a.pdf
短時間労働者についても健康診断が必要です。~愛知労働局
http://www.aichi-rodo.go.jp/topics/docs/03-08-28-2.html


(宮武貴美)


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[福利厚生]保存有給休暇制度の活用

 春闘における労使交渉も本格化している時期かと思いますが、近年の春闘においては賃上げの交渉に止まらず、より安心して働くことができる労働環境の構築を目指し、様々な要求が出されることが多くなっています。そんな中で頻繁に耳にするのが「保存有給休暇制度」の導入です。本日はこの制度の概要と運用について簡単に解説したいと思います。


 保存有給休暇制度とは、本来であれば消滅してしまう年次有給休暇(以下「年休」)を一定の日数まで保存し、私傷病などによる長期欠勤の際に取得できるようにする制度のことをいいます。


 労働基準法では、入社し6ヶ月経過すると10日の年休が付与され、その後、勤続年数が1年増すごとにそれに対応した日数が毎年、付与されることになっています。また当年度中に取得できなかった場合には翌年度に限り、持ち越すことができることになっています。つまり入社して1年半を経過した時点で、前年度に1日も年休を取得していない場合には前年度分10日+今年度分11日の合計21日の休暇が与えられることになります。


 一方、年休は付与から2年を経過するとその取得ができなくなり、権利が消滅してしまうため、もし仮に同じ社員が翌年も1日の年休も取得しなかった場合には、初年度の10日の権利は消滅し、前年度分11日+当年度分12日の合計23日の年休が取得できることになるのです。保存有給休暇制度は、この消滅してしまう年休を積み立てておき、私傷病などによる長期欠勤の際など、特定の事由による休業の場合に限り、取得することを認めるという制度です。


 具体的な運用においては、1)保存有給休暇としてストックできる年休の上限日数、2)保存有給休暇を取得できる事由、3)年次有給休暇との兼ね合い(保存有給休暇は、法定の年休をすべて取得した後に初めて使用できるなど)、4)出勤率計算などにおける保存有給休暇取得期間の取扱い、5)保存有給休暇取得期間と休職の期間との関係などを定めることになります。


 社員にとっては、病気や怪我で長期欠勤しなければならない状況になっても一定の範囲で有給休暇が認められるのは、非常に大きな安心感に繋がります。現実的にはそれほど頻繁に適用者が出るような制度でもありませんので、福利厚生制度の見直しを行われる場合には、検討されてみてはいかがでしょうか?


(大津章敬)


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「労働時間」とは?

 昨年11月から3ヶ月の間、改正育児・介護休業法に関する要点や、実務上の疑問点等をご紹介してきました。今回から3ヶ月間は、昨今話題の「労働時間管理」について、今までと同様に週末を利用して、基礎的な内容をご紹介いたします。


 初回となる本日は、労働基準法に定められている労働時間に関して解説をします。


 労働基準法(以下、「労基法」)では、「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」(第32条第1項)および、「1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」(同第2項)として労働時間の限度について定めています。また、同法第89条では「始業及び就業の時刻」を就業規則の絶対的必要記載事項であると定めています。
 労基法では、休憩時間を除く実働時間が「労働時間」だと定義しています。また判例によれば、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間を意味し、労働者が労働契約の基本的義務である労務提供義務を履行する場合はもとより、これと不可分一体のものとしてそれ自体義務付けられ、かつ事実上使用者の拘束下で行われる活動に要する時間も含まれる」とされています。
作業前の準備や作業後の後始末、休憩時間中の電話当番、研修など本来業務の周辺にある活動が労働時間に該当するか否か、という問題を考えてみると、「使用者の指揮監督下にある」時間かどうかがポイントになります。つまり、業務との関連性と使用者の命令に基づくものかという2つの要素で判断され、この2つの要件を満たせばそれは労働時間と判断されます。
そもそも始業・終業の時刻は、労使間の取り決めにより決定します。では、始業時刻までに会社に到着していればいいのでしょうか。それとも仕事に着手できる状態にある必要があるのでしょうか。社会人としては始業時刻までに仕事に取り掛かる準備ができている状態にあることが当然要求されることだと思います。確かに就業規則の服務規程に項目を設けて労働者にそのような姿勢を求めているケースもありますが、むしろ組織風土の問題として捉え、積極的に業務に取り組む姿勢を持てる職場にすることが重要ではないでしょうか。


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賞与の支給額決定方法はもっと自由に考えよう

 日頃、中堅企業の人事制度改革コンサルティングを行っていますが、多くの場合、新制度の施行時期は4月になるため、毎年12月から2月頃は、最後の追い込みということで繁忙期のようになっています。今週の月曜日も大阪のお客様を訪問し、今年の夏季賞与に向けた新しい賞与制度の設計を実施しました。そこで今日は、賞与制度改革の基本的な考え方についてお話したいと思います。


 わが国には世界的にも珍しい全社員対象の定期賞与という制度がある訳ですが、その支給額は通常、基本給連動型と呼ばれる決定方法が採用されています。要は「基本給の○ヶ月分」というアレです。この計算方式を見ると、毎回素朴な疑問が浮かんできます。


「どうして基本給と連動させるのだろう?」


 みなさんはこの計算方式を疑問には思いませんか?多くの企業では、昔からこの方法が採られていますから、改めて不思議ではない、むしろ常識と思う方も少なくないでしょう。しかし、そもそも成果配分である賞与を、なぜ基本給と連動して決めなければならないのかと私は毎回、疑問に思います。最近でこそ成果主義人事制度の浸透や定昇廃止の動きにより状況が変わりつつありますが、なんだかんだ言ってもわが国の基本給制度は年功的に運用されていることがほとんどです。春になると、なんとはなしに毎年昇給を積み上げてきた結果、多くの企業では、伸び盛りの状況にある若手課長よりも、ベテランの主任の方が基本給が高いということが、当たり前のように起きています。最近は「それではいけない」として、基本給の見直しを進める企業も増えていますが、まだまだ完全にこの逆転が解消されたとは言い難い状況にあります。このように本来的な貢献度の高さが反映されていない基本給に、一定の支給月数を乗じて賞与を計算すれば、、基本給の逆転が成果配分である賞与にまで影響してしまうことになります。具体的には、以下のようなことが発生するわけですが、この状況は会社を良くするでしょうか?
 若手優秀課長 250,000円×2ヶ月=500,000円
 ベテラン主任 350,000円×2ヶ月=700,000円


 もし私がこの若手課長であったとしたら、会社に対する幻滅を抑えることは難しいでしょう。これはいつも言っていることですが、人事管理において一番重要なことは「やってもやらないでも同じ」もしくは「頑張った者負け」の状況を作らないことです。先ほどの例は、文字通り「頑張った者負け」の状態に陥っています。みなさんの会社の次の時代を創るであろう若手優秀層のモティベーションを下げたくないのであれば、つまらない賞与計算方式はすぐに放棄し、本来あるべき状態を取り戻すことが重要です。「多くの賞与を支給すれば社員は頑張るだろう」というような馬ニンジン方式の考え方には問題がありますが、かといって差がなさ過ぎる、もしくは逆転しているという状況は「バカらしいから頑張るのはやめておこう」という社員の後ろ向きな行動を誘起することになるため絶対に行ってはなりません。


 「そこに一定の貢献度の差があるのであれば、賞与にも適切な差を設けること」。これが賞与制度を考える際の基本的な発想です。よって制度設計を行なう際には、まず「当社における貢献度の差とは何か、報いてやるべき成果とは何か」ということをしっかり考えてみましょう。これは各社様々かと思いますが、社内資格等級(グレード)、役職、人事評価結果、部門業績など、賞与算定のキーとなる貢献度の要素があるはずです。これが見つかったら、賞与配分のルールを作成します。賞与は成果配分ですから、まずは配分可能原資を設定し、それをこの様々なタイプの貢献度に応じて、各社員に配分していくのです。例えば、役職と個人評価に基づいて配分するのであれば、その2要素によるマトリックスを作成して、賞与支給額を決定してはいかがでしょうか?これをもう少し体系的にまとめた方法がポイント制賞与制度ですが、基本的な発想は今回ご紹介したようなところにあります。基本給という呪縛に囚われず、賞与は自由な発想で、効果的に決定・支給したいものです。


(大津章敬)


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アサーティブという考え方

 今回は新時代のコミュニケーション方法といわれる「アサーティブ」についてご紹介したいと思います。


 従来のコミュニケーション方法は、主として以下の3つに分類することができました。


(1)自分を大切にし、意思をそのまま相手に伝える
(2)相手を大切にし、意思を相手に伝えられない
(3)自分を大切にするが、意思を直接相手には伝えない


 この3つのコミュニケーション方法に加えて、新たに注目されているアサーティブという方法は、


(4)自分も相手も大切にする


ものをいい、一言では「双方満足」と表現することができます。





【ケース】部下が担当している業務の進捗が遅れている場合


(1)「どうして業務が遅れているんだ!」
(2)(部下の反発を怖れて)「何か忙しいみたいだね(本質が聞けない)」
(3)(本人に対して)「何か忙しいみたいだね」
   →(違う人に対して)「あいつ、仕事が遅いんだよ」


(4)「業務が遅れているみたいだけど、何か原因があるのかな?」



 (1)は上司の高圧的な態度に部下は萎縮または反発してしまい、(2)(3)では業務の進捗遅れは改善されない。


 「双方満足」は上司と部下との関係において、分かってはいるけれどなかなか実践できない行動特性のひとつです。通常、上司と部下の関係は上司の方が強い場合が多く、上司から部下に対する物言いはどうしても高圧的になってしまいがちです。この高圧的な物言いの結果、部下が反抗したり、萎縮したり、陰で愚痴を言うようになったりと、上司・部下間のコミュニケーションがうまくいっていないケースが巷では多々みられます。



 ここで「双方満足」であるアサーティブを取り入れれば、ぎくしゃくしていたコミュニケーションが円滑になるきっかけになります。私自身も老若男女問わず、様々な方とお仕事をする機会がありますが、このアサーティブを初めて知ったときは、はっと気付かされた点が多く、人と接する態度を変えるきっかけになりました。


 アサーティブが特に効果を発揮するのが、自分が本当に忙しいときです。忙しい時はどうしても人に気を遣うことを怠ってしまいます。ここでアサーティブを思い出して、忙しいときこそ相手を思いやる気持ちを持つことが重要です。


(志治英樹)


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年の途中で所定労働日数が変更になったパートタイマーの年次有給休暇

 多くの中小企業において、パートタイマーの年次有給休暇(以下「年休」という)への付与状況は、なかなか改善が進んでいない状況ですが、パートタイマーの年休付与においては、実務上、様々な問題が発生するという事例を多く目にしています。そこで本日はそうした問題の中から、年の途中でその所定日数が変更になった場合の取り扱いについて考えてみましょう。


■質問
 昨年の9月に雇入れ、現在1日5時間、1週間4日勤務のパートタイマーがいます。今年の2月1日から1日5時間、週2日勤務の労働契約に変更することになりました。今年の3月1日には、勤続が6ヶ月になり、年休が発生することになりますが、このパートタイマーには何日の年休を付与すればいいのでしょうか?


■回答
 結論としては、付与日数は週2日に対応する3日の年休が付与されることになります。まず、パートタイマーの年休付与日数については、比例付与という制度があり、その労働日数と労働時間により、実際の付与日数が決められています。
1)正社員と同じ日数が適用されるパートタイマー
 a.所定労働日数が5日以上のパートタイマー
 b.週の所定労働時間が30時間以上のパートタイマー
2)比例付与が適用されるパートタイマー
 c.週の所定労働日数が4日以上のパートタイマー(b.に該当する者を除く)
 d.年間の所定労働日数が216日以下のパートタイマー


 この内、2)については、労働基準法施行規則第24条の3で定められている通常の労働者の一週間の所定労働日数(5.2日)を基準として算出されます。例えば、週3日勤務のパートタイマーについては、以下の計算式により5日と算出されます。


10日(正社員の付与日数)×3日(週の所定労働日数)÷5.2日≒5日(小数点以下切捨)
※比例付与の早見表についてはこちらをご参照下さい。


 それでは、質問のケースですが、年の途中で所定労働日数が変更となった場合は、年休を付与する基準日現在の所定労働日数で判断することになります。したがって、質問のケースでは、年休付与日である3月1日時点で週2日の契約であれば、以下の計算により3日の年休がが付与されることになります。


10日(正社員の付与日数)×2日(週の所定労働日数)÷5.2日≒3日(小数点以下切捨)


 なお、今回の質問のケースにはありませんでしたが、一旦付与された日数について付与後に増減することはありませんので、3月1日より後に週4日勤務に変更になった場合でも、翌年のの基準日以前に付与日数が増加することはありません。


■まとめ
 最近は、企業におけるパートタイマーの活用が大きなテーマになっていますが、近年、パートタイマーの権利意識は大きな高まりを見せていますので、無用なトラブルを防ぐためにも、適正な制度運用が望まれます。今回、挙げた事例については細かな点ですが、今後はこのような点を押さえることも必要になってくるでしょう。



□参照条文:労働基準法施行規則 第24条の3 第2項
2 法第三十九条第三項 の通常の労働者の一週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数は、五・二日とする。


(宮武貴美)

賃金カットの実施状況と法的問題

 先日、ご紹介した厚生労働省「平成17年賃金引上げ等の実態に関する調査結果の概況」という統計資料の中に「賃金カット等の実施状況」という項目があります。まずはそのポイントを見てみることにしましょう。
(1)賃金カット等の実施状況
 平成17年中に何らかの賃金カット等を実施または予定している企業は15.3%(前年13.6%)となっている。このうち、「賃金カットを行った・行う」企業は76.4%(同69.2%)、「諸手当の減額を行った・行う」企業は32.4%(同39.9%)となっている。
(2)賃金カット等の対象者
 賃金カット等を実施または予定している企業について、その対象者の実施状況をみると、「管理職のみ」は28.8%(前年24.5%)、「一般職のみ」は7.6%(同16.3%)、「管理職全員と一般職全員」は24.6%(同27.4%)、「管理職一部と一般職一部」は32.0%(同22.9%)となっている。
(3)賃金カット等の実施期間
 賃金カット等を実施又は予定している企業について、その実施期間をみると、「半年以内」が13.4%(前年15.4%)、「半年以上1年以内」が16.6%(同13.7%)、「1年以上」が70.0%(同67.2%)となっている。


 このように多くの企業で管理職だけではなく、一般職までをも対象とした1年以上の期間に亘る賃金カットが実施されています。日本経済全体としては景気の回復が叫ばれていますが、実態としては同時に企業業績の二極化が進展しています。よって今後もこうした賃金カットによるコスト削減という取り組みは高水準で推移すると予想されます。そこで本日は賃金カットにおける法的注意点について述べたいと思います。


■賃金カットは従業員の個別同意が大原則 
 賃金カットを行おうとする際、まず労働組合のない企業の場合には原則、全社員の個別の同意を得る必要があります。というのも賃金は労働契約の中でももっとも重要な事項の1つとされており、それを不利益に変更する場合には労働契約の変更として、その個別同意を得るというのが原則になるのです。しかし現実には多くの企業で賃金切り下げが実施されています。そうした中には従業員数が数千名以上の大企業も含まれていますが、そういった規模の企業の場合、対象労働者全員の個別同意をもらうことは現実的に不可能でしょう。とすればどのように賃金カットを行ったのかということになりますが、こうした企業では労働組合法第17条に基づく「労働協約の拡張適用」という例外を適用した上で、カットを行っています。


労働組合法第17条(一般的拘束力)
 一の工場事業場に常時雇用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。


 つまり労働者の4分の3以上の多数でもって構成される労働組合が存在し、その組合と賃金切り下げに関して労働協約を締結した場合には、その内容が全従業員に適用されるのです。数千人の従業員を抱えるような大企業でも、労働組合との協議、協約の締結によって、個別同意なくしても賃金カットを実施することが可能になるのです。
 
■社員に厳しい現状を伝え、十分に議論することが重要 
 このように労働組合のある場合であればともかく、通常労働組合のない中小企業の場合には社員全員の個別同意なくして、賃金カットを適法に行うことは基本的にできないと考えることが必要です。とはいえ企業の状況によってはどうしてもそれを行い、現在の危機的な状況を乗り切る必要がある場合もあるでしょう。そうした際には自社の置かれている状況をきちんと社員に伝え、それを理解してもらうと共に、今後の再建計画を十分に社員と議論することが重要となります。賃金カットは現在の危機を乗り越え、自社を存続発展させるための最終手段として行われるものですが、同時に社員に非常に大きな不安を呼び起こすものでもあります。それを行うことによって社員の士気が低下し、優秀な人材の退職が相次ぐようでは本来の目的である自社の存続発展を望むことはできません。よって賃金カットを実施する際にはその前提として役員報酬などのカットを行い、労使共にその痛みを分かち合うことで、自社の存続に向けて協力していくという前向きな風土を醸成すると同時に、個別の同意を得ることが求められます。また実務的には賃金切り下げの期間を限定し、再建計画に基づき一定の業績を達成した場合には元の賃金に戻すといった約束を行い、同意を得やすい環境を用意することもポイントとなります。


(大津章敬)

人は見た目が9割

  表題の「人は見た目が9割」は最近のベストセラーで竹内一郎さんの著作である。言ってみれば、非言語コミュニケーションの効用を説いた心理学の実務書に該当する。米国の心理学者が発表した「メラビアンの法則」を基礎に言語以外で人に伝わるものは何かを語っている。法則によると、人が相手から受け取る情報は「話す言葉の内容」「見た目、身だしなみ、仕草、表情」「声の高低、大きさ・テンポ」の3つに分類され、それぞれが相手に伝達する度合いは、「7:38:55」だそうだ。後者の2つが「見た目」になるのだそうだ。


 会計事務所の業界も個人事業者や経営者個人の確定申告の本番をむかえる。 申告書を作成するのに必要な資料をお客様にお願いしたり、作成された申告書を説明したり、限られた期間で相当の仕事量をこなさねばならない。お客様にとっては年に一度のことであり、しかも、自身のことしか関心がない。しかし、会計事務所の担当者は多くのお客様の対応を迫られる。


 毎年のことであるが、ここで、担当者によって資料集めの依頼や、お客様に確認しなければならない事項について「お客様を積極的な協力者」に出来る担当者と、そうでない担当者に分かれる光景を目にする。担当者の知識の程度、経験の長さ等が同じであっても、成果が異なってくるのである。


 専門家の仕事であるから、本来なら「話す言葉の内容」で相手に協力、理解を得られるはずであるが、「差」が生じるのは、お客様への訴求する態度、熱意気迫を感じ取ってもらえるか、逆に沈着冷静な態度で接することで納得感を得るか、笑顔でお願い口調で接して自身の味方になってもらうか・・でないかと考える。


 お客様からすれば自身のこととは言え、大事な申告を依頼するのだから、担当する人の「人間力」で対応は変わってくる。大変忙しい時期に「私だけ無理は言ってはいけない」と感じてもらえるかどうか・・。「見た目が9割」の理論は当っているような気がする。


(影山勝行)